「スケッチングライト」「ホットシューダイアリー」:フォトグラファーが見た宇宙開発

旦那さんがすばらしい本を買いました。
スケッチングライト」(ジョー・マクナリー 2012/12)
ホットシューダイアリー」(ジョー・マクナリー 2012/12)
LIFE誌専属フォトグラファーを務めたジョー・マクナリー氏が小型のクリップオンライトを活用した撮影テクニックについて語っています。旦那さんによると「これすぐやってみたくなる。この人の光は真面目だし」と絶賛。Amazonではもう手に入らないのですが、紀伊国屋書店の店頭在庫検索を活用して、都内を走り回って手に入れました。それくらい読みたかったのです。

宇宙エピソードも素晴らしい件
ジョー・マクナリー氏は、1980年代にスペースシャトル初打ち上げ STS-1の撮影のころから経験を積んだとのこと、要所々々に宇宙開発の現場撮影のエピソードが登場します。これがまた面白い。
ナショナル・ジオグラフィックの企画で、スペースシャトルSTS-95のクルー撮影を引き受けたのだとか。STS-95といえば日本にとっては向井千秋さん! ですが、アメリカのメディアの注目は77歳で再び宇宙に向かったジョン・グレン宇宙飛行士に集まっていたとのこと。ミッションコマンダーのカート・ブラウン宇宙飛行士はジョン・グレン宇宙飛行士ばかり注目されるので相当にナーバスになっていたとのこと。何か申し訳ない気持ちになります。でも、向井千秋さんとジョン・グレンさんが笑顔で宇宙食を手にする写真は素敵です。
LIFEの企画では、ロシアの宇宙飛行士訓練施設”星の街”を取材したとのこと。1990年代後半の取材のようです。ロシアの宇宙ステーション”ミール”の水中モックアップを沈めたプールのある水中訓練施設の撮影許可を取りつけ、マクナリーさんは大変、期待を持っていたそう。ところが実際に行ってみたところ、確かに施設には入れた、写真も撮影できたものの、プールは空っぽ。施設を案内する契約はしたけれど、ミールが沈んだ状態で撮影できるとはいってない、というわけですね。事前に支払った契約金額は3万ドルとか怖いことが書いてあります。怒鳴り合いの交渉をしたそうですが、代わりにマクナリーさんは、トイレにプラウダ紙の切れ端がトイレットペーパー代わりに置いてあるという、いろいろ印象的な写真を撮って帰ったとか。

翻訳が残念すぎる件
大変よい本なのですが、Amazonのレビューをみるとほとんど全件に「翻訳がひどい」と書いてあります。ええ。翻訳はひどいです。
日本語の意味の通らない文も散見されますし、写真用語のチェックもできていないと思います。「スターシティ」のように英単語をカナに置き換えた言葉も多いのですが、本文に合わせて「スターシティ ロシア」で検索すれば、すぐにこれがロシアの宇宙飛行士訓練施設を擁する場所で、日本では「星の街/星の町」と表記することがわかるでしょう。「ロジア(ロシア)」や「。。(句読点ミス)」のように翻訳以前の問題、編集してないのではとさえ思えます。
写真家の監修の一人でもつけばまた違ったのかもしれませんが……製作に関わる人を増やしたとすれば、この本はおそらく3800円では出版できなかったのではと思います。いったい何部刷ったのでしょう。下世話ですが少々勘ぐってみました。
まず、この本は完全にプロのカメラマン向け、それもニコンユーザー向けの書籍です。スタジオで使うような大規模なライトを、小型のクリップオンライトなどを駆使してコンパクトなシステムに置き換える最新の技術について語る専門的な内容です。完全にニコンのシステムに依拠しており、キヤノンについて書くつもりはないと著者自身が明言しています。
カメラマンは食えなくなっているのか? の項目で調べたところ、日本に職業カメラマンは6万5000人います(2010年国勢調査より)。カメラマンにおけるニコン/キヤノンユーザーの比率ははっきりした数字がありませんが、2012年ロンドンオリンピックの年にニコン、キヤノン両社とも「シェアはうちがやや優位で6:4」と述べているそう。ですから、シェア半々だと思っておきます。すると、日本のプロカメラマンでニコンを主に使う人は3万2500人ということになり、これが書籍の想定読者層。……3万人しかいないのか……うち1割が本を買うとして(これは無根拠ですが)3000人。
当初、初版4000部と予想したのですが、下方修正で3000部です。実は2000部でしたといわれても驚きませんね。これで製作スタッフを増やしたら、書籍価格は5800円くらいになってしまうかも。そしてますます売れなくなるという。文学作品でこんなに訳が残念であればそのせいで売れなくなると思いますが、専門書籍の場合は訳がまずくても買える値段(かつ内容が陳腐化しない間)であればよいという世界が成立している例ではないかと思います。

それでもこの2冊の本が素晴らしい件
いろいろごちゃごちゃ書いたところで、やっぱりこの2冊は面白い。夫が純粋に自分の仕事のために入手した本なのに、私の方が引き込まれてしまいました。書籍の一部を玄光社のサイトで読むことができます。「光の魔術師ジョー・マクナリーの極意 ライフをクビになった理由」には、1990年代の後半に、LIFE誌の専属を外れたときのエピソードがあります。LIFEの仕事で賞を取ったにもかかわらず、社の方針で首になったというのですね。

私は何が起きるかわかっていて、それを楽しもうと決めていたのでした。彼女の最初のセリフ:「ジョー、わかっているかもしれないけど、うちではもう専属フォトグラファーは置かないことにしたの。」私の返事:「そうでしょうね。写真誌に専属フォトグラファーなんて要らないですよね?」
これでスタッフではなくなりました。40代後半にして、失業したのです。

 LIFE誌にしてこの仕打ち。

雇い主が授賞式にやってきて、あなたの手を両手で掴み息を弾ませて「君の作品、最高だよ!」と大声で言うかもしれません。でも彼は同時にあなたをじろじろ見てこんなことを思っています。「何でこんなに金がかかるんだろう。今では無料でいくらでも写真が手に入るのに、なぜ金を払わなくてはいけないんだ?」

こうしたことは今、アメリカでなくとも、フォトグラファーでなくとも、どこでも多分起きていることです。これが続くと、体が動かなくなるという言葉は日々実感しています。カメラを持ちあげるのも重く感じると。

それでも生き残ろうともがきながら、あなたはカメラを手にします。写真を撮ってください。それが職人らしい仕事だろうと、完全に二流の仕事だろうとかまいません。それによって、a)収入が得られ、b)次の日も戦えるのです。

 戦って、そしてどうなるかはわからないので、この後は引用しません。それでも、戦って勝ち抜いた人の言葉を頭の隅に置いて、私も自分の仕事をすることにします。

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