プラネット・ラボの超小型衛星があればLANDSATはいらない?

3月16日付のNew York Timesに、超小型衛星コンステレーション構築を開始したリモセンベンチャー企業、Planet Labs社の紹介記事が掲載されています。同社の4kg程度の超小型衛星「Doves(はと)」シリーズ衛星のビジネス紹介であると共に、アメリカの宇宙ベンチャー企業ビジネスの良い紹介記事になっていますので、興味深く読みました。
Start-Ups Aim to Conquer Space Market

Planet Labs社サイトより。ISS「きぼう」エアロックからのDoves衛星放出

記事中で紹介されているDove衛星は、国際宇宙ステーションから次々と放出が行われている超小型衛星放出機構によって軌道上に展開されています。Japanese astronautsは、ISS日本実験棟「きぼう」から超小型衛星の放出を担当されている、若田光一宇宙飛行士のことですね。放出に当たって不具合も報告されているのですが、Planet Labs社は同型衛星によって全131機ものコンステレーションを構築するそうです。多少の不具合は織り込み済みなのかもしれません。また、民生品の機器(ノートPC用のバッテリーなど)を衛星開発に採用していると書いてあります。軌道実証は行われていない、フライトプルーブン「ではない」コンポーネントを採用して開発費を抑え、軌道実証と衛星コンステレーションのシステム構築を同時進行で進めているようですね。衛星は、ITベンチャーの製品と同様にバージョンアップを繰り返しており、現在開発中のグループは、すでに軌道上にある旧世代の衛星から数えるとVer.9にあたるそうです。

こうした新興の宇宙企業はthe space start-up、宇宙スタートアップと呼ばれ、シリコンバレーのITベンチャーと同じ開発手法だと紹介されています。そして、Silicon Valley is taking its disruptive ways into outer space. (シリコンバレーが宇宙に雪崩を打ってきている)とも。同様の企業として、すでにISSへの補給船商業打ち上げを2度成功させた(3回目は延期になってしまっていますが)、宇宙新興企業の筆頭Space X、昨年11月の衛星初打ち上げ以来、高解像度リモセン画像や動画を次々と公表しているSkybox Imaging、モハーヴェ宇宙港で再使用ロケット開発を行っているMasten Space Systemsなどが紹介されています。

ビジネス手法として、シリコンバレーベンチャーと同様の宇宙開発は支持を得ているようです。少なくとも、Planet Labs社は、同社の未公開株6500万ドル相当以上の投資を獲得しているとのことです。

それでは、宇宙開発もこれからは民間の時代だ、日本だって軽薄短小の技術を持っているので、これからは超小型衛星開発に乗り出せばいいのだ、となるかというと、それは少し違うのではないかと思っています。

記事では、低コストで開発でき、高頻度で地球観測が可能なDove衛星の比較対象として、NASAが打ち上げ、USGS(アメリカ地質調査所)が運営するLANDSAT8号(LDCM)が挙げられています。Dove衛星の500倍もの重量があり、開発費は10億ドルもかかっている。LANDSAT8号は地球上のある地点を撮影し、次に同じ地点の上空に来るまで2週間以上(回帰日数は16日)もかかるのに、Dove衛星なら(コンステレーションが完成すれば)毎日でも同じ場所を撮影できる。Dove衛星搭載のコンピュータが6か月前の最新モデルであるのに対し、大型衛星のコンピュータは10年前の性能……なんだか、国費衛星はムダのかたまりみたいですね。

そのムダに見える機能こそが、まだまだ求められているのだというコメントが紹介されています。気象や農業の専門家によれば、LANDSATのような大型衛星が搭載している赤外線イメージャのデータが専門分野では必要とされており、超小型衛星は同様の機能を持っていません。比較の対象にならないので、「真の競争はまだ始まっていない」ということです。

さらによく読むとDove衛星はかなりいろいろなものを切り捨てているからこそ、コストを削減できることがわかります。軌道実証を経ていない衛星部品を採用していることもそうですし、衛星には推進システムを搭載していないそうです。衛星に推進システムがないということは、スペースデブリの接近が懸念されても、軌道を調整して避けることができません。
※念のため、Dove衛星の軌道はISSと同じ高度400km付近です。数多くの地球観測衛星で込み合っている高度600~800kmの領域ではありませんし、衛星の運用終了後の地球大気圏への再突入も早くなります。ただ、ISSへのデブリ衝突が懸念されているわけですから、問題はやはりあるといえます。

衛星が、スペースデブリのような潜在的なリスクに備える機能を持っていないのだとすれば、結局は誰かがそれを引き受けることになります。それは、アメリカが備えているデブリ探知、接近警告システム(NORADのレーダー群からJSPOCの警報発令体制まで)もそうですし、agiなど複数の企業の協力による、民間のSSAも始まっていると聞きました。

ISSからの衛星放出にしても、そもそもISSという軌道上施設にアメリカは大きな投資をしているわけですし、Dove衛星を運んだのはNASAとの契約のもとに商業輸送を担うオービタル・サイエンシズのシグナス補給船です。放出機構には「きぼう」のエアロックを使っていますが、NanoRacksの衛星放出機構はNASAの認証のもとに開発がすすめられたアメリカ発のシステムです。

宇宙スタートアップが開発した靴箱サイズ、9ポンドのDove衛星が軌道に乗って機能を果たすまでに、アメリカは40年にわたってLANDSAT衛星を維持して民生用リモセン衛星という市場を開拓し、ISSを構築し、スペースシャトルから商業ISS補給船事業への引き継ぎを行い、スペースデブリ監視網というかSSAの体勢を整えている。他にももっといろいろな投資をしているとおもうのですが書ききれません。

いうなれば、Planet Labsの事業はアメリカがこれまで頑張って整えてきた、宇宙の実用化という環境、宇宙特区の上に乗った事業なのだと思います。Dove衛星がコスト削減の追及のために切り捨てた何かが、後に何らかの事故の原因になるようなことがもしあれば、最終的にそのつけは国が引き受けます。ですから、それだけのバックアップ体制はできているということでしょう。

なんだか老婆心くさい文章になってしまいました。ただ、最近はアメリカの事例をもとに、同様の条件が整っているかどうかをすっ飛ばして日本も宇宙の民営化を進めるべき、といった論調があるような気がして、思うところを形にしておいた次第です。
(論拠になる資料のリンクはおいおい進めます……)

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