ムーンホークス:捏造論者との出会いはいつも突然

昨晩、NHK総合で『幻解!超常ファイルダークサイド・ミステリー 人類は本当に月に行ったのか?』の放映がありました。「アポロ月着陸捏造の疑惑映像を徹底検証!」ということで、久しぶりにアポロ捏造論またはMoon Hoaxの検証を観ました。番組は短い時間で「背景に星が映らないのはなぜか」「宇宙飛行士の影が平行にならないのはなぜか」といった点を解説しています。こういうことは一度は信じている人を説得したとしてもしばらくするとまた言い出す人が出てくるので、繰り返し説得しなくてはならないのでしょうね。2015年にもなって、まだ同じことを言わなくてはならないのか……と溜息は出ますが。

さて、番組では「1960年代にアメリカが月へ行くことができたのなら、なぜその後40年も同じことができないのか」という定番の質問がありました。この質問、私も実際に受けたことがあります。しかも相手は子供の小学校6年生のときの担任の先生。3学期末の卒業間近というタイミングでしたが、これからも小学生を教える公立学校の先生が理科の教科書にも載っている有人月探査という事実に疑問を抱いている、と思うとやはりスルーしておけなかったのです。クラス懇親会後に歩きながら、と込み入ったことを説明するにはハードル高い状況でしたが、説明しようと試みました。

当時、陰謀論に対する説得はあまり状況を長く説明するよりも、シンプルに一言にした方がよいのでは、と考えていたので「お金がないからですよ」と短く返答してみました。『1960年代にアメリカが月へ行くことができたのなら』という疑問の背景には、月有人探査は”技術”の問題である、技術は過去よりも現代の方が進んでいる、という前提が感じられます。しかし宇宙探査は技術だけの問題ではなく、巨額の予算折衝を伴う政治の問題でもあります。米ソの競争という政治を動かす力がない状態では、有人月探査への巨額の費用への議会の(納税者の)理解は得られないという視点を持ってもらえないかと目論んだわけです。短い時間でどこまで説明できるかわかりませんでしたが、「おや?」と思うきっかけになればよいと思ったわけですが……

ダメでした。撃沈です。そもそもNASAに「予算がない」という状態を感覚的に理解してもらうこと自体が非常に難しいのです。

その経験から、昨日ツイートしたのがこの3つ。

最初のツイートが思いがけずたくさんRTされています。その後、宇宙クラスタの方と大事なやり取りをいくつもさせてもらいました。「では、どう言えば説得できるのか?」というところに関心があるようですね。

5年前の経験を振り返ってみると、短い一言で気づいてもらうためにはお互いにそれなりの量の知識を共有していることが前提であるように思います。下のグラフは、1959年のNASA発足から2015年までの歴代の有人宇宙探査プログラムの費用を、2010年のドルの価値に換算してそのボリュームを示した労作です。オリジナルの調査はこちら、それを元にしたコラムはこちら

アポロ計画は10年間で1000億ドル(2010年当時の歴史的円高水準で換算しても9兆円くらい)、スペースシャトル計画は40年で2000億ドル(同18兆円)、宇宙ステーション計画は30年で700億ドル(同6兆3000億円)。アポロ計画は総額ではスペースシャトルより小さいですが、短期間で多額の費用を費やしたことがわかります。技術的に可能だからといってもう一度やれ、といっても無理ですよね。

このくらいの情報量を共有しているか、またはこのグラフの内容を一言で表すことができれば「お金がないからです」という説明も通じるのかもしれません。もちろん、それもグラフのビジュアルな説得力(アポロ計画の費用が短期間に突出していること、スペースシャトル計画が多くの費用を長期間にわたって費やしていることが一目でわかる)あってこそです。単に「スペースシャトルは2000億ドルかかっている」とだけ説明したら、「アポロの倍じゃん。お金ないなんて嘘でしょ」ということになってしまいます。

作家のG・K・チェスタートンが「無人島に1冊だけ本を持って行くとしたら?」と聞かれて「造船術の本」と答えたというエピソードがありますが、これたしか新聞社から多くの著名人に向けられた質問だったはずです。作家と新聞社というプロ同士のやり取りだったからこそ当意即妙のやりとり、嫌味も通じたと思うので、パーティーかなにかの席でこの返答をしても「だめですよーw 無人島から出ないって前提なんですからー。やり直しw」(自分で書いててイラッとします……)とか言われて通じない、なんてこともありそうです。

先の経験で、私がムーンホークスについて相手を説得しなければ、と考えた最大の理由は相手が学校の先生だからです。私には見過ごせない線であったためです。そうした差し迫って説得の必要性にかられたとき、「一言でバシッと」うまく言い表すという方法は合っていなかったのだと思っています。また、「エジプトはなぜピラミッドをまた作らないのか」「青函トンネルは」という逆質問もそうではないでしょうか。ピラミッドは歴史的遺産であり、現代の技術で作ってエジプトの経済に寄与するのか、また青函トンネルが複数必要だという議論を私は知りません。とんち問答で相手をやり込められればよいのですが、多分うまくいかないのです。本気でいつでも相手を説得するつもりがあるのならば、想定問答を造ってきちんとした資料をまとめて、スマホに入れておくくらいのことはきっとしなくてはならないのでしょう。やるならとことんやらないと。

ムーンホークス:捏造論者との出会いはいつも突然」への1件のフィードバック

  1. 日本が財政破綻する!とか国の借金がー!とかいうのも似たレトリックですね。市場は嘘をつかない・つけないので、財政破綻するであろう国が発行した金利が低いこととの整合性が取れません。ちょっと考えればわかるはずですが、「思い込み」で突っ走るのが陰謀論者や破綻論者の共通点です。

    彼らの性質の悪いところは自分でばら撒いた「疑惑」のタネを回収しようとしないことですね。検証しようとしないところがまさに非科学的で論説に値しないのではありますが、雨後のタケノコのごとく焼き払っても生えてくるので困ります。

    狂信の徒はいつの時代にもいるものと思います。結果が先にあってそれを既成事実化しようとする社会が現れかねない現実にもゾッとさせられます。インターステラーでもそんな感じの社会でした。慰安婦といいアポロといい、あんな社会は意外と身近にあるのかも、と思いました。

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