地球観測衛星WorldView-3を打ち上げたときのAtlas V Image Credit:United Launch Alliance
地球観測衛星WorldView-3を打ち上げたときのAtlas V
Image Credit:United Launch Alliance

5月13日掲載、日経ビジネスオンライン掲載『“アマゾン”ベゾスのロケットエンジン、表舞台にスペースXシフトを鮮明にしたULAの「ヴァルカン」』を読みました。何で日本にはってこうした大事な記事を掲載するメディア(できればアクセスしやすいオンライン媒体)は松浦晋也さんの記事くらいしかないのでしょう。新型基幹ロケットの将来にも関わるというのに。

それはともかく、ULA(United Launch Alliance)の Valcan登場とAtlas V、Delta IVの引退に関して昨日から新情報が話題となっています。

Aerojet Rocketdyneが開発する、AR-1エンジンを現行Atlas Vの代替エンジンとして採用する方向で検討が行われているとのこと。2019年以降、ロシア製RD-180はEELVの防衛衛星打ち上げには使用できない、との禁止令がすでに米議会で決定しており、予定では2019年にAtlas V→第1段階Valcanへの移行が行われるのかと思われていました。これに待ったをかけたのが、NASAのマーシャル宇宙飛行センターの元所長で、現在は防衛企業DyneticsのCEO、David A. King氏やNASAの前長官、マイケル・グリフィン氏が関わる航空宇宙防衛企業、Schafer社、そしてAerojet Rocketdyneらの防衛産業連合です。

4月29日、アシュトン・カーター国防長官は、これら企業連合に対してAtlas Vの運用と知的財産を移転させることができるか? との問い合わせをしたといいます。国防省側には、まだ実績がないどころか開発前のValcanロケットがどこまで当てになるのか強い懸念があるとのこと。Aviation Weekの記事では、「ケロシン燃料のRD-180からメタン燃料のBE-4に移行すれば、タンクがはるかに大型になる、なぜそんなことをするのか」とKing氏がULAのトーリー・ブルーノCEOに疑問を呈したというのです。

一昨年くらいからずーっとEELV参入の門戸開放を訴え続けているSpace XのFalcon 9に任せるという手もあります。もちろんその方向では進むのでしょうし、Falcon 9は着々と実績を積み上げています。ただ、53機連続打ち上げ成功というAtlas Vの実績には到底とどかない。また、Falcon 9はスケジュールの遅れが目立つので、打ち上げウインドウが厳密なタイプの衛星打ち上げには向かないのではないか、という懸念もあるそうです。「スペースXはだいたい3カ月遅れる」と私も聞いたことがあります。また、昨年のシグナス/アンタレス、先月のプログレスとISS輸送船の事故が相次いでおり、ISSへのカーゴシップはSpace Xの肩にかかっています。宇宙飛行士の安全が関わることですからこれは最優先にしてもらわなければ困るということで、Space X1社にEELV打ち上げまで託すというのは難しいのではと。今月話題になったクルードラゴンのPad Abort Testですが、あれも実は3月実施予定から遅れたとのことです。

Aerojetら企業連合側は、Atlas VのエンジンをAR-1に変更する案について、まずは技術的には2019年までに可能と考えています。米空軍の認証手続き(試験機の打ち上げ成功実績)を経て2020年にはAR-1搭載型Atlas Vを実用化できるということです。

問題は、ULAがAtlas Vの製造・運用の権利移転を認めるかという点と、あとは資金の問題。Spacenews.comやAviation Weekの記事では、問い合わせに対してULA側は「Atlas Vに関する権利を移転させる予定は全くない」と完全に否定しています。わざわざコンペティターを増やす理由など何もない、ということですね。ただ、防衛側は選択肢が増えてリスク回避できるのでむしろコンペティターに増えて欲しい。それが非の打ち所がない実績のAtlas Vなら言うことなし、でしょう。資金についてはどこから引き出すのか難しいところですが、前述の防衛企業連合は、従来通り政府系資金を得てきた経験が豊富だというのが記事の見方です。設立からこれまで総額120億ドルもの民間投資を獲得してきたSpace X(イーロン・マスクCEO本人による1億ドルの資金も含まれます)は別格ですが、防衛関連企業はその性質からいって、民間資金獲得はあまりうまくないそうです。

これから、Aerojet側企業とULA、防衛省の綱引きが始まるのでしょう。流れとして、この件についてAerojet側にAtlas V製造とAR-1エンジンへのリプレースなど開発費をつけること認めるかどうか、議会の小委員会で公聴会が開かれて、GAO(会計監査院)が出席し「どのオプションが国民の税金にとって最も効率よく使える道筋となるか」についての見解を示すことになるのではないでしょうか。米議会の分野別小委員会でもWebcastでみっちり中継が行われますから、これは見るしかないでしょう。あの早口英語を聞くのは骨が折れますが…知りたければ、やるしかないですね。

Aerojet Rocketdyne AR-1エンジン
http://www.rocket.com/ar1-booster-engine

Aviation Week記事
http://aviationweek.com/space/industry-team-hopes-resurrect-atlas-v-post-rd-180

Spacenes.com記事
http://spacenews.com/aerojet-led-team-seeks-atlas-5-production-rights/

ロイター記事
http://www.reuters.com/article/2015/05/11/us-usa-military-space-idUSKBN0NW28W20150511

Aerojet Rocketdyne AR-1エンジン Image Credit:Aerojet Rocketdyne
Aerojet Rocketdyne AR-1エンジン
Image Credit:Aerojet Rocketdyne
Aerojet Rocketdyne AR-1エンジン Image Credit:Aerojet Rocketdyne
Aerojet Rocketdyne AR-1エンジン
Image Credit:Aerojet Rocketdyne