宇宙からアホウドリを数える

とても魅力的なニュースがありました。

世界の民間地球観測衛星の中でも、解像度31cmという最高クラスの分解能を誇るDigital GrobeのWorldView-3衛星の画像を使って、宇宙からアホウドリの個体を1羽1羽数えようという研究です。

BBCニュースでで見つけたこの調査プロジェクト、いくら高分解能とはいえどうやって個体の数を判別するのか、なぜアホウドリなのか、報告の原文がありましたので読んでみました。

Using super-high resolution satellite imagery to census threatened albatrosses

■誰が調査したの?

英国南極研究所(BAS)の調査チームです。筆頭著者はPeter T. Fretwellさん。BBCのニュースで「調査対象のキタシロアホウドリは翼長が3mもあり、衛星画像で数ピクセル分になるので個体を数えることができる」と解説されていたのはこの方ですね。

■キタシロアホウドリって?

大型の海鳥であるアホウドリの仲間は絶滅危惧種となっている種がいくつもいます。中でも、ニュージーランド南島の東側、チャタム諸島に生息するキタシロアホウドリ(Northern Royal Albatross)は、IUCNレッドリストで「危機」(絶滅危惧ⅠB類)に分類されている大型の種類です。

繁殖地の島は、チャタム諸島の中でもフォーティーフォーズ諸島、ビッグシスター島、リトルシスター島の3つに集中しているといいます。1980年代と1990年代にキタシロアホウドリの住む島に連続して激しい嵐があり、地表の植物などを根こそぎ押し流してしまうことがありました。このため、90年代には卵が孵らずに生息数が大幅に減り、現地調査と航空機調査で確認された繁殖ペアの数は1995年に5200になってしまったといいます。その後、2002年には5800つがいまで回復しました。

■なぜ衛星から数えるの?

地球観測衛星の画像で生物の生息を調査するという試みはそれほど珍しくありません。ただ、ある動物種の生活に欠かせない植物の広がりを調べることで間接的に生息している地域を調べるとか、ペンギンのコロニーを調べることで生息数を推定するとかいった手法が中心のようです。報告によると、直接個体を数えるという試みはホッキョクグマ、アザラシ、ヌー、ミナミセミクジラなど大型の動物で小規模に、試験的に行われたことがあるといいます。なので、ツイートで世界初らしい、といったのは間違い。ただ、超高解像度(VHR)衛星の画像が利用できるようになったことで、宇宙から個体数を数える衛星画像の利用も本格的に始まってきたということなのでしょう。

今回のキタシロアホウドリの個体数観測は、生息数とその傾向を調べるためのもの。WorldView-3の画像を使った手法の正確さなの実証でもあります。比較対象として、同じく大型のワタリアホウドリも観測しています。イギリス領のサウスジョージア島のワタリアホウドリは地上からの観測で巣の数などが継続して確認されているので、衛星画像で数えた結果と比較することでその精度を確かめられるというわけです。

そもそも、キタシロアホウドリは断崖絶壁に囲まれた無人島に繁殖していて、人が容易に近づくことができません。航空機での観測は天候に左右され(雲があると見えないのは衛星画像も同じですが)、かつニュージーランド本島からかなり距離があるためにかなりコストもかかって頻繁な観測が難しいそう。

利用できる衛星画像が進歩した、という事情もあります。2015年、アメリカで商用地球観測画像の解像度が50cm制限から30cmとなり、より高解像度の画像を利用できるようになりました。VHR衛星画像を利用しやすくなったことで、科学的な利用への期待も高まったといいます。中でも、DigitalGlobeの運用するWorldView-3(ボール・エアロスペース製、2014年打ち上げ)は31cm(直下)という商用衛星では最高の超高解像度を誇っています。1平方mあたり、50cm解像度の衛星ならば4ピクセルとなるところ、31cm解像度なら2倍以上の10.4ピクセルに。宇宙から動物を数えられる可能性が飛躍的に高まったといいます。

そしてキタシロアホウドリの繁殖期にあたる2016年の2月にチャタム諸島を撮影した衛星画像と、前年の2015年12月のアーカイブ画像を2009年の地上観測写真と比較することになりました。また、過去の地上観測地には巣の位置と不可能成功/失敗を記録済みだといいます。

■実際のところ、どうだったの?

で、実際に衛星から撮影された画像がこちら。

キタシロアホウドリは白い羽根にところどころ黒い模様が混じった姿をしており、緑や茶色の植物の上では白く目立ちます。身体の大きさは107~135cmほどとのこと。WordView-3の画像を拡大しても、ちゃんと白いピクセルになって写っているんですね! ところどころ、やや大きい白いドットが写っているのは、地上で羽根を広げている(ディスプレイ中または飛ぼうとしている)とのこと。


そして、こちらは2016年2月に撮影されたリトルシスター島(a)とフォーティフォーズ島(b)での営巣地の衛星画像。あ……白い点がいっぱい見える……というだけで、なんだか新時代という感じがします。

ただ、キタシロアホウドリの白い点が多く見えるフォーティーフォーズ島に比べ、リトルシスター島はなんだかまばらに見えます。個体数のまとめ表によると、2009年の航空機観測とくらべるとフォーティーフォーズ島はやや減少、という程度ですがビッグシスター、リトルシスター島での減少が大きいとのこと。1990年代にキタシロアホウドリの環境に大きな影響を与えた島の植物の減少は、フォーティーフォーズ島ではだいぶ回復したものの、ほかの2つの島では回復が遅れているため、キタシロアホウドリの繁殖の成功率にも影響しているのではないかといいます。

今回の観測でキタシロアホウドリの将来が心配されるものの、衛星画像による観測の有効性はかなり高く、ほかの継続的なモニタリングが必要な絶滅危惧種にも応用できそうだと報告書は述べています。応用するとしたら、2ピクセル以上になる身体の大きさが62cm以上で、身体の色が白や黒など周囲とコントラストが高い動物なら行けそうだとのこと。たとえばほかのアホウドリやカツオドリ、ペリカンやハクチョウなどなど。航空機よりも低コストで、人が行くよりも安全な観測手段のオプションが広がる期待ができそうです。

 

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