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SpaceXの前に消えていったニュー・スペース企業たち

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この3月、宇宙ビジネスを題材にした良書が2冊立て続けに発売された。1冊は「アトランティック」関連WebメディアQuartzのティム・ファーンフォルツ記者による『Rocket Billionaires: Elon Musk, Jeff Bezos, and the New Space Race』。もう1冊はワシントン・ポスト紙のクリスチャン・ダベンポート記者による『The Space Barons: Elon Musk, Jeff Bezos, and the Quest to Colonize the Cosmos 』だ。どちらも現在の宇宙ビジネスを牽引するイーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、リチャード・ブランソン、グレッグ・ワイラーといった大富豪を取り上げている。多角的にニュースペースの人物像を知ることができるいい機会なので、読まずに宇宙ビジネスを語ってはいけないと思う。

せっかくなので、ネタバレになりすぎない程度に中身を紹介したい。先に読んだThe Space Barons(宇宙業界の豪商列伝という感じ)から、SpaceXやBlue Originとも関連の深い「その他の」企業の話だ。

まずは、イーロン・マスクの精神的先輩ともいえる民間ロケット企業ビール・エアロスペースについて。この会社は、20世紀末にペイロード20トンのヘビーリフター「BA-2」開発構想を掲げ、第2段エンジン開発に成功するも創業4年で消えていった。

創業者で数学の天才アンドリュー・ビールはテキサスで不動産売買によって財産を築き、民間宇宙産業を勃興しようと1997年にビール・エアロスペースを設立。テキサスのミサイル実験場だった場所をリースして開発を始めた。

これだけ聞くとクレバーな人のようだけれど、性格は根っからギャンブル好きで、ラスベガスに来てはめちゃくちゃな高レートのポーカー勝負を始め、現地でも超一流のプロのポーカー師2人がかりで丁重におもてなしされた上に勝ったり(その後はラスベガスに通いつめて億単位で勝ったり負けたりしている)、「人類は小惑星衝突で滅びるかもしれない、宇宙移民を急がなくては」と本気で心配したりしている。天体衝突には科学的根拠もあるが、『ディープ・インパクト』『アルマゲドン』公開が1998年であることを考えると、何に影響されたのかうかがえる気がする。ビジネスを覚えたのも、11歳のときに、軍の払い下げTVを1ドルで買い取って修理して40ドルで売り抜ける手法を実践してから、と控えめにいってもキチガイエピソードが満載の人だ。

ロケット構想は非常に大掛かりで、BA-2ロはサターンVのF-1エンジンを超える巨大エンジンを搭載し、3段式で高さ72メートルの巨大ロケットになる構想だった。すべて自己資金で第2段搭載用のケロシン/過酸化水素エンジンを開発するまでにいたった。

ただ、「宇宙産業が政府によって囲い込まれているのは不当だ」という強い信念を持ち、ロッキード・マーチンやボーイングといった企業と軍やNASAの関係が閉鎖的で、同時に最大のビジネスリスクだと常に主張していた。当時はまだNASAによるCOTSのようなプログラムはなく、2000年にNASAと国防総省合同の次世代宇宙機構想Space Launch Initiativeが発表されると、民間に勝ち目はないと絶望してビール・エアロスペースを廃業する。

それから数年。空っぽになった開発拠点のテキサスのマグレガー・ファシリティでエンジン燃焼設備がすっかり錆びついたころ、ジム・カントレルという1人の男性が施設を訪れる。知っている人は知っていると思うが、カントレル氏は初期のSpaceXで働いていた人物だ(現在はVector Space Systemsを設立して小型衛星打ち上げビジネスに参入)。ビール・エアロスペースの志も試験施設も今やイーロン・マスクが引き継いでいるというわけだ。

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次にキスラー・エアロスペースについて。大事なのは、これがCOTS契約を得てSpaceXらと競争するも資金難で消えていったロケットプレーン・キスラーの前身となる企業で、2005年までの話だということだ。しかも、カウンターパートはやはりSpaceX(というかイーロン・マスク)だ。実はCOTS以前にもSpaceXとキスラー・エアロスペースの間で競争があり、結果キスラーが負けている。

2004年当時、SpaceX(まだFalcon 1が飛ぶ前)がNASAを顧客にしようと奮闘していたころ、NASAはビール・エアロスペースを苦しめたSpace Launch Initiative計画のもとで、キスラーから再使用ロケット「K-1」の飛行データを2億2700万ドルで購入する契約を結んだ。

これに異を唱えたのがSpaceXだった。「NASAが同様の契約の機会をキスラー以外の企業に与えないのは不公正だ」と議会に訴えた。SpaceX内部では顧客にしようとしているNASAを敵に回すようなことをしてよいのか、と懸念の声が上がったというが、イーロン・マスクは主張を取り下げなかった。

Space Baronsの記述では、その背景にキスラーの開発責任者ジョージ・ミュラーの存在を見ている。ミュラーはサターンV、スカイラブ、スペースシャトル開発を手がけた伝説的エンジニアだ。キスラーは2003年にK-1開発費用が膨らみすぎて破産しており、契約は実質、NASAが大先輩である人物の関わる企業に対して救済措置として行われたというわけだ。2005年のSpacenews.comの記事もこれに似た論調で「ビジネスプランに問題のある企業を救済するのはNASAの仕事ではない」と結論づけている。
そして、SpaceX社内外の懸念もあった中で、GAOはイーロン・マスクの主張を認めた。これでキスラーは窮地に陥る(そもそも破産しているが)。K-1の開発は当初の2億5000万ドル予定から倍の5億ドルに膨らんみ、かつまだめどが立っていない。Spacenewsの記事によると、企業救済の専門家ダグラス・タイテルバウムが投資を試みたものの、出口戦略を見つけられずに撤退してしまい、キスラー・エアロスペースは完全に終わってしまった。翌2006年にロケットプレーン社に買収されてロケットプレーン・キスラーが誕生するが、NASAの民間宇宙輸送計画COTSに参入するも資金問題は解決できずに撤退。もう「キスラー」の名の元に宇宙ビジネスへ参入するのは無理ではないかと思う。

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K-1 Vehicle Separation. Image Credit: RpK

NASAの救済の元に延命しようとしたキスラー・エアロスペースだが、実は1993年に設立されたころ、NASAは同社の顧客として重視されていなかったのだという。キスラーによる商業宇宙活動は、通信業界向けの低軌道衛星コンステレーションビジネスを目指していた。ドットコム・バブルが弾け、衛星事業者の撤退に伴ってK-1の開発は頓挫したということなのだが、もしかしてそれは「テレデシックとキスラーが共倒れ」ということなのでは…? と思ってしまう。また、2000年代に入って、ローコスト打ち上げ手段への関心を増大させていた、国防総省界隈(ULA設立のときにも出てきた話だ)へK-1を売り込みに行かなかったのもまずかったのでは? とSpacenewsは述べている。

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ここまでは消えていったライバルの話だが、ここからは現在進行系でライバルであるULA設立の経緯をおさらいする。

もともと安全保障分野の政府コントラクターとして寡占的な地位を占めつつ競争を繰り広げていたボーイングとロッキード・マーチンだけれども、1998年に打ち上げ契約数で19:9とボーイング圧勝となったことがあった。その後、実はボーイングがロッキード・マーチンの内部情報を不正に入手していたことが判明。ペンタゴン周辺の大スキャンダルとなり、ボーイングは契約を制限される制裁をくらった。

2001年に9/11が発生して以来、GPSや軍事通信衛星はますます重要視されるようになっていった。NASAは技術開発の中核として存在感が増し、政府系の打ち上げ市場は巨大ビジネスとなった。

ペンタゴン界隈としては、衛星打ち上げロケットのロバスト性(片方に失敗があってももう片方が代わりを担える)意味でも、技術を常に発展させコストを下げる意味でも、2社以上に競争を続けてほしい。かといって、競争が行き過ぎてスキャンダルのようなことがまたあっては困る。そこで、企業は分けたままビジネスだけを統合させようと、ULAを設立させたという小史が語られている。巨大企業の誕生に政府系打ち上げのボーイング、ロッキード・マーチン依存度はますます増した。これにずーっとケンカを売り続けているのがSpaceXという次第だ。

このようにThe Space Baronsにはこの20年ほどのニュー・スペース界隈の浮き沈み事例がいくつも取り上げられている。これがあって今のSpaceXやBlue Originもある。

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SpaceXがたったひとつのボルトでロケットごと宇宙輸送船を吹っ飛ばした理由

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2015年6月、SpaceXがドラゴン輸送船の打ち上げ(CRS-7)中に第2段の爆発が起き、国際宇宙ステーションへの積荷ごとドラゴンが失われたという事故があった。それから2年9ヵ月、2018年の3月になって、NASAの独立調査チームによる報告書が発表になり、SpaceXが当初発表した第2段圧力容器周りの材料欠陥ではなく、「設計ミス」の可能性が大きいとしている。

NASA Independent Review Team
SpaceX CRS-7 Accident Investigation Report Public Summary
Date of Event: June 28th, 2015
Date of Report: March 12th , 2018
CRS-7事故の引き金になったのは、Falcon9ロケット第2段のLOx(液体酸素)タンクの圧力容器コンポーネント部分。コンポーネント内のヘリウムボトルを支える「アイボルト」「ロッドエンド」※(先端に太いリングが付いたボルト)の破損による。

※「『アイボルト』は他のボルトを指すため、正しくは『ロッドエンド(ロットエンド)』または『ボールロットエンド』の呼称が適切とのご指摘をいただき、修正いたしました。

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このロッドエンド破損から圧力容器コンポーネント全体に破損が起きて、ロケット第2段の爆発事故につながった。SpaceXの調査チームは当初このロッドエンド破損を「材料欠陥によるもの」としており、NASAの打ち上げ計画(Launch Services Program)チームもこの報告を支持していたという。

今回発表になったのは、LSPとは別のNASA独立調査チームによる報告だ。報告書によると、SpaceXはロッドエンドの素材として17-4PHという析出硬化型ステンレス鋼の素材を選択していた。参照した資料によると17-4PHも「航空機・ロケットなどの構造材」として用途があるため、まるっきり用途違いの素材を持ってきたというわけではないようだ。ただ、SpaceXは一定の安全係数をかけて部品を製造、実装するにとどまり、負荷試験などを行っていなかったという。

メーカーには航空宇宙グレードの推奨素材もあったそうだが、SpaceXはこれを選択しなかった。結果として17-4PH SS製のロッドエンドは極低温条件と飛行環境に耐えられずに破損、事故につながった、というのが事故の大きな原因として挙げられている。

オフザシェルフによるコストダウンの努力が結果としてめっちゃ高くついたという感じだ。それだけでなく、当時SpaceXはFalcon9のフライトコンピューターの実装方式を変更していて、飛行テレメトリ周りでレイテンシが増えるものになっていた。結果としてデータがまだバッファに溜まっているときに事故が起きてしまい、異常を示すデータもだいぶ失われてしまったという。個人的にはこうした「事故の原因になったわけじゃないけどそれやっちゃダメなやつ」の存在はとても気になる。そうした経緯があったからか、NASAは2年以上かけて事故のデータを保存し、今回の報告書を発表したという。

報告書に関するQuartzの報道によると、事故当時と同型のFalcon9はもう製造されておらず、その後は31回の打ち上げに成功している(2016年9月の打ち上げ失敗をのぞく)。そのため、本当の原因に対処できないままFalcon9を打ち上げてしまった、というわけではないようだが、2016年のNASAの文書でも「部品の取り付け方法に何か問題があったのでは?」という疑問を呈しており、SpaceXに対してハードウェア・サプライチェーンの管理を確実かつ安全性の高いものにしてほしい、という要望を持っていたようだ。

ファルコン・ロケットを再利用するとスペースXはどのくらい「お得」?

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アメリカで超小型衛星向けの小型ロケットを開発するVector Space Systemsのジム・カントレルCEOが、SpaceXのFalcon9ロケット第1段の再利用について、経済性の観点からQuoraに回答を寄せていました。面白いのでざっと訳してみます(やや生硬な部分はご容赦ください)

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How much does SpaceX save by reusing a Falcon rocket?

再利用可能なロケットを開発するための研究開発費を賄う、としよう。ロケット第1段を帰還させるには、機会費用(ここでは、帰還時に必要な燃料と、もっと多くのペイロードを軌道に乗せることができたはず、という収益機会の喪失という意味)と、フライトとフライトの間に必要な改修費用がかかる。一般的に業界の経験からすると、すべての費用を考慮して収益が得られるとするまでに、再使用ロケットまたはブースターを5~10回は打ち上げなければならないとされている。

このテーマについては多くの論文が書かれており、これはかなり確かな「経験則」だといえる。だが、これは「中古」の第1段で飛んでいる多くの顧客が要求するであろう値下げを考えると割に合わない。

私はSpaceXのFalcon 9の第1段は3回くらいまでしか打ち上げに再利用されないと考えている。したがって、SpaceXはこの算盤勘定で考えると再使用ロケットで収支が合うとはとてもいえないのだ。

それなら、なぜSpaceXは再利用ロケットを着陸させようとしているのだろう? これには2つ理由が考えられる。

まず、これは明らかに火星への着陸技術だということだ。これがSpaceXの目標の1つだとすると、(私はそもそもSpaceXという企業を興した主たる目的が火星行きだと思っている)、着陸システムの開発コストは再利用性とは関係のない他のさまざまな費用として計上されることになる。

次に、再利用性はフライト料金の大幅な増大を可能にする。おそらく主目的はこちらだろう。SpaceXの財務モデルを解析してみると、良好で強いプラスのキャッシュフローに達するためには、このクラスのロケットがこれまで実証してきた年間10~12回よりも多くの打ち上げが必要になることがわかる。単なる生産と物流の観点からすれば、再利用性によって打ち上げ可能回数を簡単に倍増させる。

再利用性を実現することで、年間20~25回打ち上げを実行でき、スペースXはより確実なキャッシュフローポジションに入ることができる。これが非常に重要な再利用ロケット開発の推進力であると私は考えている。主として生産、輸送、および付随するインフラストラクチャの面からすると、第1段は打ち上げ回数を増加させる際にはボトルネックの1つになると考えられている。 再利用性によって素晴らしいブランドイメージを形成できるということもある。だがもっと重要なのは、再利用技術で火星着陸の準備をしつつも、スペースXが打ち上げ回数を倍にしてより多くの金を稼ぐことができる、ということだ。

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第1段は生産のボトルネックだから2~3回再利用できればそろばんが合うというわけですね。となると、再利用した機体で打ち上げ失敗があると一気にキャッシュフロー健全化が遠のきそうな気はします。オペレーション、どうなっているんだろうと思いますね。

トランプ政権下のNASA方針決定チームにニュー・ホライズンズのアラン・スターン博士が参加へ?

Credit: NASA/JHUAPL/SwRI

Credit: NASA/JHUAPL/SwRI

2017年1月20日のドナルド・トランプ氏、米大統領就任まであと1ヶ月を切りました。

新政権でアメリカの宇宙政策とNASAがどうなるのかはまだはっきりとはわかりません。米メディアも情報が少ないので手を焼いているような印象を受けます。

新政権の周囲にいる人と議会の共和党は、これまでのNASAの計画の中でも小惑星再配置ミッション(ARM:Asteroid Redirect Mission)と地球科学プログラム(最近では、ハリケーン観測衛星CYGNSSを打ち上げました)に冷たいので、この2つは今後は冷遇、場合によっては撤退もありうるかもしれません。特に前者については、「NASAもやめてしまった小惑星探査」のような余計な言説になって日本に入り込んでくるのではないか? という不安も感じています。

何がどうなるのかはともかく、現状ではどのような方向性で話し合われているのか、整理しておきましょう。

■大統領選挙中に発言していた人たち

ボブ・ウォーカー氏
元下院議員のウォーカー氏は、2016年の大統領選挙中にトランプ氏の陣営で宇宙政策アドバイザーを務めた人です。NASAの地球科学を強く批判しており、同分野はNOAAに移管してNASAは宇宙探査に専念すべき、との主張が知られています。

現在、ウォーカー氏は新政権のNASAランディングチーム(方針策定チーム)には入っておらず、公式には宇宙政策を主導する立場にはありません。ただ、12月頭に開催された、宇宙政策に関するギャロウェイ宇宙法シンポジウムで講演、「NASAのゴールを“火星”といった単一の目標ではなく、太陽系探査全体とすべき」「地球科学部門を他の政府機関に移管」「ISSの運営を半官半民の企業体に移管」「National Space Councilの復活」「安全保障衛星の拡大とロボット化の推進」といった主張を述べたといいます。
ウォーカー氏は、「NASA長官就任を目指しているわけではない」と強調したということですが、公式な立場を離れても、発言内容はまだ重要視されているのではないかとも考えられます。

ジム・ブライデンスティーン氏
現役の下院議員であるブライデンスティーン氏は、新政権でのNASA長官候補として名前が上がったこともある人です。複数の候補の名前が上がっていますが、NASA長官は新大統領就任と足並みを合わせなければならないというものではないので(現在のボールデン長官は、前任者の任期終了後に就任しているので、オバマ大統領就任とは1年以上タイミングがずれています)結論が出るのはもう少し先かもしれません。
現在、ブライデンスティーン議員は下院の科学・宇宙・技術委員会で環境小委員会の議長を務めているということで、宇宙資源採掘と宇宙条約の整合性に関する議論を行っているとのことです。これはこれで非常に気になるテーマですが、長くなりすぎるのでちょっと置いておきます。

■現在のNASAランディングチーム

11月末、大統領政権移行チームは、新NASAの方針を策定するランディングチームを組織し、12月頭には初期6人のメンバーが参加しました。

クリス・シャンク氏:最初に選ばれたメンバー。ブッシュ政権下で当時のNASAのマイク・グリフィン長官の特別補佐官を務める。現在は下院の科学・宇宙・技術委員会(SS&T)のスタッフ。

グレッグ・オートリー氏:南カリフォルニア大学教授

ジャック・バーンズ氏:コロラド大学、天体物理学科教授。アメリカ天文学会副総裁、ルナール大学天文物理学研究ネットワーク(LUNAR)責任者、NASA諮問委員会科学委員会委員長などを経験。

スティーブ・クック氏:NASA出身。この人は、ブッシュ政権下で月・火星探査を計画してたコンステレーション計画の元、Ares計画のマネージャーとしてアレスIロケットとアレスVロケット開発に関わっていたということで注目されています。

ロドニー・ライスヴェルド氏:NASA出身で、マイク・グリフィン前長官とチャールズ・ボールデン現長官の元で上級政策顧問をつとめました。

サンドラ・マグナス氏:マクダネル・ダグラスのエンジニアから宇宙飛行士へ。スペースシャトル引退まで4回のミッションを経験し、ISS Expedition18長期滞在にも参加。現在はAIAAのエグゼクティブ・ディレクターとのことです。女性の宇宙飛行士経験者は、米女性初のスペースシャトルコマンダーとなったアイリーン・コリンズ氏がNASA長官候補として名前が上がっているので、あるいはこの方もそうかもしれません。

ジェフ・ワックスマン氏:元IBMワトソン研、現在はアリゾナ州選出のSchweickert議員の元で政策研究を行っているそうです。

■ランディングチームの追加メンバー

12月20日には、このランディングチームにさらにメンバーが加わりました。

チャールズ・ミラー氏:元NASA。2009年から2012年まで、NASAの民間宇宙企業との協業計画に参加し、CCDeVなど複数の計画に携わっていたといいます。また、ISSで超小型衛星放出機構など複数の宇宙実験機器を開発している、NanoRacksの設立メンバーでもあるといいます。NextGen Spaceというコンサルティング会社も起こしているとのこと。2015年には、NASAによる民間宇宙の可能性を評価するレポートの主任研究員を勤めており、「官民パートナーシップなど民間の力を活用すれば、5~7年で月への短期間ミッションを、これまでよりもはるかに低いコストで実現できる」と結論を出したといいます。1990年代から、民間宇宙開発推進のロビー活動も行っていたといい、かなりのコマーシャルスペース推進派です。

アラン・スターン博士(候補):追加のランディングチームメンバーとして、冥王星の探査で話題となったニュー・ホライズンズの主任研究員、アラン・スターン博士の名前が上がっているそう。実は、スターン博士は民間宇宙活動を推進するCommercial Spaceflight Federationのチェアマンをつとめていて、複数の民間宇宙企業に関わっています。高高度気球での宇宙旅行を計画するWorld Viewのチーフサイエンティストであり、ブルー・オリジンやヴァージン・ギャラクティックのコンサルティングにも参加、商業月旅行を計画しているGolden Spikeのアドバイザーも務めています(このゴールデン・スパイクは2012年の計画発表以来あまり音沙汰がないそうですが)などなど。

Alan Lindenmoyer氏(候補):ジョンソン宇宙センターでコマーシャルクルー、コマーシャルカーゴのNASA側責任者をつとめた人です。

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NASAのランディングチームメンバーと候補者を見ると、元NASAメンバーも多くいます。かつ、民間宇宙開発に理解もあり、これまでのNASAと宇宙企業の協調路線を継承する方針なのかな、とも思わせます。SLS開発は継続し、ボーイング・ロッキードマーチン合同のULAによるヴァルカンロケットも政府系衛星打ち上げの基幹ロケットとして採用、といった。

その一方で、元NASA関係者から、『スペースXのレッド・ドラゴンをNASAの火星計画に組み込もう』といったもう一段の民間宇宙開発推しの発言があり、これをジェフ・ベゾス氏が出資しているビジネス系メディアが報じる(しかもARM計画の廃棄とセットで)など、何かあまり好きになれない流れもあったりします。しかも、よく考えたらジェフ・ベゾス氏のブルー・オリジンはヴァルカンロケットにBE-4エンジンを供給することになっているので、ベゾス氏からするとどっちに転んでも悪くない話なんですよね…

どこまでもややこしいNASAの将来ですが、引き続き経過を追って、最終的な着地点まで見届けたいと思います。

ドナルド・トランプ大統領と火星への道のり

2016年11月9日、アメリカ大統領選挙に共和党のドナルド・トランプ氏が当選し、第45代米大統領となることが決定しました。米大統領戦に勝利するには政党が結束していることが必要だと思っていたので、共和党大物議員が次々と不支持を表明したトランプ候補が当選したことにはとても驚いていますが、選挙結果は選挙結果です。

決まったからには、トランプ新大統領がどのような宇宙政策を主導するのか、その方向性について考えてみたいと思います。

困ったことに、候補者であったときからトランプ氏は宇宙政策についてほとんど具体的な案を示していません。Scientific AmericanSpaceNewsなどいくつかのメディアが大統領選の最中に質問していますが、トランプ氏は抽象的かつ短い回答をしているにとどまっています。例えば有人宇宙政策はどうするのか、NASA予算は拡大なのか縮小なのか、といったことには「現状の問題については答えられない」としています。2020年代に小惑星へ、2030年代に火星へ、という現在の目標に対する回答は「就任後は、宇宙計画について包括的なレビューを行い、議会と共に宇宙ミッションとその優先度を決定する」と答えているのみ。クリントン、トランプ両氏の宇宙政策に関するメディア記事をまとめたForbesの記事によれば、要するにトランプ氏のこうした態度は「宇宙への関心の欠如を示しているのではないか」としています。

とはいえ、大統領に就任するからには、宇宙政策を放置、NASAは勝手にやって、というわけにもいきません。また、「アメリカを再び偉大にする」と打ち出しているからには、世界の宇宙開発を主導していると考えるアメリカの立場を積極的に放棄するということも考えにくいです。「ビジネスマンとして」とコメントしていることからも、産業と科学技術の分野で後退すると受け取られる施策も取りにくいでしょう。ただ、コストとベネフィットを勘案して、最大の効果が上がるようにするとはいっています。

情報や手がかりがない中で予測するのはあまり良いことではないかもしれませんが、あえてこの「関心は特にないが、後退しているようには見られたくない」ということを実現しようとした場合、どんなことをするのか考えてみたいと思います。

そこで考えられるのが、4年の任期終了後に設定されているような大目標には手はつけないが、その道程に計画されていることには手をいれる、という方法。アメリカがいま抱えたり検討している大きな宇宙プログラムには、2030年代の有人火星探査、2020年代の有人小惑星探査、木星の衛星エウロパの無人探査、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)、国際宇宙ステーション(ISS)の2024年までの維持と民間宇宙輸送の推進、などがあります。

この中で、火星有人探査が最大規模の目標であることは間違いないと思いますが、ここには手を付けないのではないかと思うのです。「火星にアメリカ人が一番乗り」はとてもわかりやすい目標ですし、火星をやめてどうするのか、という問題もあります。ここで月をもう一度有人探査の目標にしてしまうと、ルナ計画を再開して月面基地計画を進めるというロシアや中国との競争になってしまうのです。

エウロパの無人探査については、目標にはあえて手を付ける必要もないし、議会と協調して予算を理由に実現を先延ばししてもどちらでもよいというところではないでしょうか。ISECGの国際宇宙探査ロードマップ(もうすぐVer.3が発表されるとのことですがそれにしても)を見ても、木星をターゲットにした大目標をもっている国はアメリカ以外になく、ジュノー(木星)、ニュー・ホライズンズ(冥王星とカイパーベルト天体)の実績を持つアメリカ以外の国が、トランプ大統領の任期中に彗星のように抜き去っていく、ということはちょっと考えにくいからです。

ISSについては、すでに民間へ宇宙輸送を委託するCOTSが始動していることから、産業育成の点からいっても民間移譲の流れでこのまま進めていくと思われます。また、JWSTは完成まで押し詰まっており、予定通りならば任期真ん中の2018年打ち上げです。任期中にハッブル宇宙望遠鏡の後継機として世界最高性能の宇宙望遠鏡打ち上げに立ち会う大統領、という立場を捨てる理由もないでしょう。

と、いうわけで米大統領としてトランプ氏は現在の宇宙政策を拡大路線で進めて行くようにも思われますが、ここで考えたいのが、2030年火星有人探査という目標を実現する、その方法です。つまり、Space Launch System(SLS)とOrion宇宙船の開発です。

SLSは実現すればアポロ宇宙船を打ち上げたサターンVを超える世界最大級のロケットになる予定ですが、予算超過と計画の延期が何度か問題になっています(JWSTもたびたび延期しましたが、こちらは完成間近)。無人モジュールEM-1を搭載した試験機初打ち上げは2018年末に予定されていますが、上段を改良しての実用機の打ち上げは早くとも2021年以降。アメリカで人気の天文学者フィリ・プレイトさんもこの問題を取り上げたことがあり、「一宇宙ファンとしてはSLSはエキサイティングだけれども」としながらもその実現に疑問を呈しています。

ここで、もしもトランプ大統領と議会がSLS計画の見直しを打ち出し、火星有人探査の目標はそのままに、手段をSLS以外のもっと費用対効果の高いものにする、といえば、かならずしも「宇宙(科学)オンチの大統領の暴挙」というよりも、英断と評価される可能性もあると思うのです。

しかも、SLSを推進するNASAの中にも、SLS反対派がいます。現在はNASAを離れていますが、元NASA副長官のロリ・ガーヴァーさんはSLS中止を主張する論者で、元宇宙飛行士であり有人宇宙探査協力推進派のチャールズ・ボールデン現長官とは異なる立場をとっています。

NASA長官は米大統領が任命するので、ここでボールデン長官の後にガーヴァーさんをNASAへ呼び戻すとしたらどうでしょう? もともとガーヴァーさんもオバマ大統領が任命した人ではあるので、応じるかどうかはわかりません。ただ、NASAを率いるだけの実績を持つ人の中にも、SLS中止の側に立つ人はいるわけです。また、アメリカ政府機関の中でも世界的に知名度、人気の高いNASA長官に女性を登用すれば、女性に人気がないともいわれるトランプ氏にとってはひとつの評価点になるかもしれません。

では、SLSをやめて火星はやめないとすれば、どうやって火星へ行くんだという疑問は当然でてきます。ここから先は憶測の上に憶測を重ねるようなことになりますが、COTSで有人輸送技術を手にした後に、火星有人探査を目標としている民間企業がありますね、とは思います。

もう一つ懸念があるとすれば、SLS/Orionでの火星探査の前に、その前段階として予定されている小惑星探査(Asteroid Redirect Mission)ですが、これは大きな後退を余儀なくされるということです。せっかく日本の「はやぶさ2」と同時期に小惑星探査機OSIRS-RExを打ち上げているアメリカがそうなってしまったら残念なのですが、先行きに対するヒントは、まだ見つかりません。

プラネット・ラボの超小型衛星があればLANDSATはいらない?

3月16日付のNew York Timesに、超小型衛星コンステレーション構築を開始したリモセンベンチャー企業、Planet Labs社の紹介記事が掲載されています。同社の4kg程度の超小型衛星「Doves(はと)」シリーズ衛星のビジネス紹介であると共に、アメリカの宇宙ベンチャー企業ビジネスの良い紹介記事になっていますので、興味深く読みました。
Start-Ups Aim to Conquer Space Market

Planet Labs社サイトより。ISS「きぼう」エアロックからのDoves衛星放出

記事中で紹介されているDove衛星は、国際宇宙ステーションから次々と放出が行われている超小型衛星放出機構によって軌道上に展開されています。Japanese astronautsは、ISS日本実験棟「きぼう」から超小型衛星の放出を担当されている、若田光一宇宙飛行士のことですね。放出に当たって不具合も報告されているのですが、Planet Labs社は同型衛星によって全131機ものコンステレーションを構築するそうです。多少の不具合は織り込み済みなのかもしれません。また、民生品の機器(ノートPC用のバッテリーなど)を衛星開発に採用していると書いてあります。軌道実証は行われていない、フライトプルーブン「ではない」コンポーネントを採用して開発費を抑え、軌道実証と衛星コンステレーションのシステム構築を同時進行で進めているようですね。衛星は、ITベンチャーの製品と同様にバージョンアップを繰り返しており、現在開発中のグループは、すでに軌道上にある旧世代の衛星から数えるとVer.9にあたるそうです。

こうした新興の宇宙企業はthe space start-up、宇宙スタートアップと呼ばれ、シリコンバレーのITベンチャーと同じ開発手法だと紹介されています。そして、Silicon Valley is taking its disruptive ways into outer space. (シリコンバレーが宇宙に雪崩を打ってきている)とも。同様の企業として、すでにISSへの補給船商業打ち上げを2度成功させた(3回目は延期になってしまっていますが)、宇宙新興企業の筆頭Space X、昨年11月の衛星初打ち上げ以来、高解像度リモセン画像や動画を次々と公表しているSkybox Imaging、モハーヴェ宇宙港で再使用ロケット開発を行っているMasten Space Systemsなどが紹介されています。

ビジネス手法として、シリコンバレーベンチャーと同様の宇宙開発は支持を得ているようです。少なくとも、Planet Labs社は、同社の未公開株6500万ドル相当以上の投資を獲得しているとのことです。

それでは、宇宙開発もこれからは民間の時代だ、日本だって軽薄短小の技術を持っているので、これからは超小型衛星開発に乗り出せばいいのだ、となるかというと、それは少し違うのではないかと思っています。

記事では、低コストで開発でき、高頻度で地球観測が可能なDove衛星の比較対象として、NASAが打ち上げ、USGS(アメリカ地質調査所)が運営するLANDSAT8号(LDCM)が挙げられています。Dove衛星の500倍もの重量があり、開発費は10億ドルもかかっている。LANDSAT8号は地球上のある地点を撮影し、次に同じ地点の上空に来るまで2週間以上(回帰日数は16日)もかかるのに、Dove衛星なら(コンステレーションが完成すれば)毎日でも同じ場所を撮影できる。Dove衛星搭載のコンピュータが6か月前の最新モデルであるのに対し、大型衛星のコンピュータは10年前の性能……なんだか、国費衛星はムダのかたまりみたいですね。

そのムダに見える機能こそが、まだまだ求められているのだというコメントが紹介されています。気象や農業の専門家によれば、LANDSATのような大型衛星が搭載している赤外線イメージャのデータが専門分野では必要とされており、超小型衛星は同様の機能を持っていません。比較の対象にならないので、「真の競争はまだ始まっていない」ということです。

さらによく読むとDove衛星はかなりいろいろなものを切り捨てているからこそ、コストを削減できることがわかります。軌道実証を経ていない衛星部品を採用していることもそうですし、衛星には推進システムを搭載していないそうです。衛星に推進システムがないということは、スペースデブリの接近が懸念されても、軌道を調整して避けることができません。
※念のため、Dove衛星の軌道はISSと同じ高度400km付近です。数多くの地球観測衛星で込み合っている高度600~800kmの領域ではありませんし、衛星の運用終了後の地球大気圏への再突入も早くなります。ただ、ISSへのデブリ衝突が懸念されているわけですから、問題はやはりあるといえます。

衛星が、スペースデブリのような潜在的なリスクに備える機能を持っていないのだとすれば、結局は誰かがそれを引き受けることになります。それは、アメリカが備えているデブリ探知、接近警告システム(NORADのレーダー群からJSPOCの警報発令体制まで)もそうですし、agiなど複数の企業の協力による、民間のSSAも始まっていると聞きました。

ISSからの衛星放出にしても、そもそもISSという軌道上施設にアメリカは大きな投資をしているわけですし、Dove衛星を運んだのはNASAとの契約のもとに商業輸送を担うオービタル・サイエンシズのシグナス補給船です。放出機構には「きぼう」のエアロックを使っていますが、NanoRacksの衛星放出機構はNASAの認証のもとに開発がすすめられたアメリカ発のシステムです。

宇宙スタートアップが開発した靴箱サイズ、9ポンドのDove衛星が軌道に乗って機能を果たすまでに、アメリカは40年にわたってLANDSAT衛星を維持して民生用リモセン衛星という市場を開拓し、ISSを構築し、スペースシャトルから商業ISS補給船事業への引き継ぎを行い、スペースデブリ監視網というかSSAの体勢を整えている。他にももっといろいろな投資をしているとおもうのですが書ききれません。

いうなれば、Planet Labsの事業はアメリカがこれまで頑張って整えてきた、宇宙の実用化という環境、宇宙特区の上に乗った事業なのだと思います。Dove衛星がコスト削減の追及のために切り捨てた何かが、後に何らかの事故の原因になるようなことがもしあれば、最終的にそのつけは国が引き受けます。ですから、それだけのバックアップ体制はできているということでしょう。

なんだか老婆心くさい文章になってしまいました。ただ、最近はアメリカの事例をもとに、同様の条件が整っているかどうかをすっ飛ばして日本も宇宙の民営化を進めるべき、といった論調があるような気がして、思うところを形にしておいた次第です。
(論拠になる資料のリンクはおいおい進めます……)

ISSを2024年まで運用延長:発表全文

2013年9月17日、来日し東京大学で講演したNASA チャールズ・ボールデン長官 (撮影:小林伸)

2013年9月17日、来日し東京大学で講演したNASA チャールズ・ボールデン長官 (撮影:小林伸)

2014年1月9日・10日の2日間にワシントンで開催されたIAA Space Exploration Conferenceにあたり、前日の1月8日にオバマ政権が国際宇宙ステーションの2024年までの運用延長を打ち出しました。
アメリカ議会はこれを了承するのか? ISSに2024年まで費用をかけると、SLS/Orionを継続できなくなるという予測もあるがどうするのか? 日本を含めてどこまで参加各国がついていくのか? 技術的には、ISSは2028年まで運用できるということだがそれはどんな保証によるものか? さまざまな疑問がありますが、まずはなんといってもアメリカ(オバマ政権とNASAボールデン長官)がなんといっているのか、文言を読んでみないことには始まりません。
報道ですとどうしても省略されてしまいますから、例によって自力で読みこんでみることにしました。自分のためのものですから荒っぽいものではありますが、要素となる語句は落としていないつもりです。
しかし、清々しいほどアメリカの国益のことしか書いてありませんね(当たり前ですが)。それはまあ当然ですので、ここから何を引き出せるのか、まずは考える材料となればと思います。

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オバマ政権、国際宇宙ステーションを少なくとも2024年まで延長

1月9日から10日まで、ワシントンに世界30カ国以上の宇宙機関の長が集まり、将来の宇宙探査に関する史上初のサミットを開催するにあたり、オバマ政権が国際宇宙ステーション(ISS)を少なくとも2024年まで延長すると承認したことを喜びとともにお伝えします。我々は、ISSのパートナーが少なくとも次の10年までの延長の取り組みに参加し、この他に類を見ない軌道上実験室において、画期的な実験の実施を継続するであろうと希望、楽観視しております。

ISS運用の延長により、NASAと国際宇宙コミュニティは数多くの重要な目標を達成できるでしょう。

第一に、NASAはISSで、地球低軌道の先にある計画中の、2025年までに小惑星へ、2030年までに火星へといった長期間の有人ミッションに必要な研究活動を完了します。NASAは、長期のミッションで予見される32の人体への健康リスクのうち、21項目を十分に低減するにはISS上の研究が必要と考えています。それと関連するISSの重要な機能とは、人間が深宇宙で安全かつ生産的に活動するために必要な宇宙機システムと技術の試験を行うことです。2024年までのISS延長により、こうしたシステムを成熟させるために必要な時間を得られるでしょう。

第二に、ISS延長は宇宙ステーションから社会的利益へ至るより流れをさらに広げます。ISSで実施された研究は、すでに医学や産業へ影響する重要な数多くの発見をもたらす結果となりました。医学の例では、サルモネラ菌や細菌の抗生物質耐性株に対する潜在的なワクチンや、健康な細胞には影響を及ぼさずにがんの腫瘍へ薬剤を届ける治療のためのマイクロカプセル化技術などがあります。さらに、ISSの先端技術は、これまで手術不可能だと考えられていた腫瘍を取り除くロボット手術の開発にも道を開いています。

ISS延長の将来的な利益とは、NASAと民間宇宙開発パートナーに対し、貨物と人員を地球低軌道へ輸送する商業宇宙産業へのさらに十分な移転の時間をもたらし、NASAは深宇宙探査のための次世代ヘビーリフトロケットと有人カプセルの開発に集中できるようになるということです。

すでにふたつのアメリカ企業がISSへの補給契約を結んでいます。現在の貨物輸送契約は、2016年、2017年の期限に終了しますが、ISSを2024年まで延長すれば、さらに多くのフライトをISS貨物輸送サービス契約に追加することができるようになり、より競争力のある価格設定となり、新しい民間の入札者も参加可能になって最終的にはもっと多くの合衆国の商業衛星打ち上げへ繋がるでしょう。

合衆国国土から宇宙ステーションへアメリカの宇宙飛行士を打ち上げることは、オバマ政権にとって最優先項目であり、民間企業が私たちの宇宙飛行士を軌道上へ運ぶ認可へと大きな一歩を踏み出しています。初の商業有人飛行は2017年に予定されており、一部はわずか3年間の商業有人飛行への投資を疑問視しています。2024年までISSを延長すれば、付帯するフライト回数も増加し、フライト1回当たりのコストを引き下げ、投資はもっと魅力的になるでしょう。

ISSはまた、地球とその気候の変動に関する研究において、ますます重要な役割を果たしています。今後の数年間に、ISSはSAGE III( Stratospheric Aerosols and Gases Experiment:成層圏エアロゾルとガス実験)やRapidSCAT(ocean winds measurement instrument:海洋風測定器)、OCO-3(Orbital Carbon Observatory:軌道上炭素観測衛星)、CREAM(Cosmic Ray Energetics and Mass experiment:宇宙船エネルギー論と質量実験)、CALET(Calorimetric Electron Telescope:カロリメータ型宇宙電子望遠鏡)といった地球と宇宙科学を研究する機器を迎えます。2024年までISSの安定性と可用性を確実にすることで、科学コミュニティにISSというプラットフォームは長期間の研究の努力にとって重要なものになり得るという信頼を与えるでしょう。

最後に、ISSの延長は今後の有人宇宙飛行における合衆国のリーダーシップを凝集していくことでしょう。ISSは、史上もっとも複雑かつ挑戦的な工学的努力の結集です。その成功のカギとは、NASAの創意工夫と国際協力のコンビネーションンにあります。15カ国のパートナーと現在68カ国の1回またはそれ以上のISS利用国による、この他に類を見ない軌道上実験室は、平和的な国際協力によって達成することができた、明らかな人類にとっての利益の実証です。アメリカがそのリーダーとして、このままこのパートナーシップを維持することは重要です。宇宙でのリーダーシップは、経済的発展、技術的優位、国民的プライド、より広範な世界におけるアメリカのリーダーシップへの貢献をもたらすのです。

ISSは、巨大な科学的、社会的利益を提供する他に例のない施設です。少なくとも2024年まで運用を延長するというオバマ政権の決断は、その潜在的な可能性を最大化し、国家と世界にとって欠かせない利益をもたらし、宇宙におけるアメリカのリーダーシップを保持することができるでしょう。

ジョン P. ホールデン
科学技術担当大統領補佐官
科学技術政策局局長

チャールズ・ボールデン
NASA長官

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追記:タイトルが「2014年」になっていました。ご指摘いただいて2024年に修正いたしました。お恥ずかしい。