トランプ政権下のNASA方針決定チームにニュー・ホライズンズのアラン・スターン博士が参加へ?

Credit: NASA/JHUAPL/SwRI

Credit: NASA/JHUAPL/SwRI

2017年1月20日のドナルド・トランプ氏、米大統領就任まであと1ヶ月を切りました。

新政権でアメリカの宇宙政策とNASAがどうなるのかはまだはっきりとはわかりません。米メディアも情報が少ないので手を焼いているような印象を受けます。

新政権の周囲にいる人と議会の共和党は、これまでのNASAの計画の中でも小惑星再配置ミッション(ARM:Asteroid Redirect Mission)と地球科学プログラム(最近では、ハリケーン観測衛星CYGNSSを打ち上げました)に冷たいので、この2つは今後は冷遇、場合によっては撤退もありうるかもしれません。特に前者については、「NASAもやめてしまった小惑星探査」のような余計な言説になって日本に入り込んでくるのではないか? という不安も感じています。

何がどうなるのかはともかく、現状ではどのような方向性で話し合われているのか、整理しておきましょう。

■大統領選挙中に発言していた人たち

ボブ・ウォーカー氏
元下院議員のウォーカー氏は、2016年の大統領選挙中にトランプ氏の陣営で宇宙政策アドバイザーを務めた人です。NASAの地球科学を強く批判しており、同分野はNOAAに移管してNASAは宇宙探査に専念すべき、との主張が知られています。

現在、ウォーカー氏は新政権のNASAランディングチーム(方針策定チーム)には入っておらず、公式には宇宙政策を主導する立場にはありません。ただ、12月頭に開催された、宇宙政策に関するギャロウェイ宇宙法シンポジウムで講演、「NASAのゴールを“火星”といった単一の目標ではなく、太陽系探査全体とすべき」「地球科学部門を他の政府機関に移管」「ISSの運営を半官半民の企業体に移管」「National Space Councilの復活」「安全保障衛星の拡大とロボット化の推進」といった主張を述べたといいます。
ウォーカー氏は、「NASA長官就任を目指しているわけではない」と強調したということですが、公式な立場を離れても、発言内容はまだ重要視されているのではないかとも考えられます。

ジム・ブライデンスティーン氏
現役の下院議員であるブライデンスティーン氏は、新政権でのNASA長官候補として名前が上がったこともある人です。複数の候補の名前が上がっていますが、NASA長官は新大統領就任と足並みを合わせなければならないというものではないので(現在のボールデン長官は、前任者の任期終了後に就任しているので、オバマ大統領就任とは1年以上タイミングがずれています)結論が出るのはもう少し先かもしれません。
現在、ブライデンスティーン議員は下院の科学・宇宙・技術委員会で環境小委員会の議長を務めているということで、宇宙資源採掘と宇宙条約の整合性に関する議論を行っているとのことです。これはこれで非常に気になるテーマですが、長くなりすぎるのでちょっと置いておきます。

■現在のNASAランディングチーム

11月末、大統領政権移行チームは、新NASAの方針を策定するランディングチームを組織し、12月頭には初期6人のメンバーが参加しました。

クリス・シャンク氏:最初に選ばれたメンバー。ブッシュ政権下で当時のNASAのマイク・グリフィン長官の特別補佐官を務める。現在は下院の科学・宇宙・技術委員会(SS&T)のスタッフ。

グレッグ・オートリー氏:南カリフォルニア大学教授

ジャック・バーンズ氏:コロラド大学、天体物理学科教授。アメリカ天文学会副総裁、ルナール大学天文物理学研究ネットワーク(LUNAR)責任者、NASA諮問委員会科学委員会委員長などを経験。

スティーブ・クック氏:NASA出身。この人は、ブッシュ政権下で月・火星探査を計画してたコンステレーション計画の元、Ares計画のマネージャーとしてアレスIロケットとアレスVロケット開発に関わっていたということで注目されています。

ロドニー・ライスヴェルド氏:NASA出身で、マイク・グリフィン前長官とチャールズ・ボールデン現長官の元で上級政策顧問をつとめました。

サンドラ・マグナス氏:マクダネル・ダグラスのエンジニアから宇宙飛行士へ。スペースシャトル引退まで4回のミッションを経験し、ISS Expedition18長期滞在にも参加。現在はAIAAのエグゼクティブ・ディレクターとのことです。女性の宇宙飛行士経験者は、米女性初のスペースシャトルコマンダーとなったアイリーン・コリンズ氏がNASA長官候補として名前が上がっているので、あるいはこの方もそうかもしれません。

ジェフ・ワックスマン氏:元IBMワトソン研、現在はアリゾナ州選出のSchweickert議員の元で政策研究を行っているそうです。

■ランディングチームの追加メンバー

12月20日には、このランディングチームにさらにメンバーが加わりました。

チャールズ・ミラー氏:元NASA。2009年から2012年まで、NASAの民間宇宙企業との協業計画に参加し、CCDeVなど複数の計画に携わっていたといいます。また、ISSで超小型衛星放出機構など複数の宇宙実験機器を開発している、NanoRacksの設立メンバーでもあるといいます。NextGen Spaceというコンサルティング会社も起こしているとのこと。2015年には、NASAによる民間宇宙の可能性を評価するレポートの主任研究員を勤めており、「官民パートナーシップなど民間の力を活用すれば、5~7年で月への短期間ミッションを、これまでよりもはるかに低いコストで実現できる」と結論を出したといいます。1990年代から、民間宇宙開発推進のロビー活動も行っていたといい、かなりのコマーシャルスペース推進派です。

アラン・スターン博士(候補):追加のランディングチームメンバーとして、冥王星の探査で話題となったニュー・ホライズンズの主任研究員、アラン・スターン博士の名前が上がっているそう。実は、スターン博士は民間宇宙活動を推進するCommercial Spaceflight Federationのチェアマンをつとめていて、複数の民間宇宙企業に関わっています。高高度気球での宇宙旅行を計画するWorld Viewのチーフサイエンティストであり、ブルー・オリジンやヴァージン・ギャラクティックのコンサルティングにも参加、商業月旅行を計画しているGolden Spikeのアドバイザーも務めています(このゴールデン・スパイクは2012年の計画発表以来あまり音沙汰がないそうですが)などなど。

Alan Lindenmoyer氏(候補):ジョンソン宇宙センターでコマーシャルクルー、コマーシャルカーゴのNASA側責任者をつとめた人です。

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NASAのランディングチームメンバーと候補者を見ると、元NASAメンバーも多くいます。かつ、民間宇宙開発に理解もあり、これまでのNASAと宇宙企業の協調路線を継承する方針なのかな、とも思わせます。SLS開発は継続し、ボーイング・ロッキードマーチン合同のULAによるヴァルカンロケットも政府系衛星打ち上げの基幹ロケットとして採用、といった。

その一方で、元NASA関係者から、『スペースXのレッド・ドラゴンをNASAの火星計画に組み込もう』といったもう一段の民間宇宙開発推しの発言があり、これをジェフ・ベゾス氏が出資しているビジネス系メディアが報じる(しかもARM計画の廃棄とセットで)など、何かあまり好きになれない流れもあったりします。しかも、よく考えたらジェフ・ベゾス氏のブルー・オリジンはヴァルカンロケットにBE-4エンジンを供給することになっているので、ベゾス氏からするとどっちに転んでも悪くない話なんですよね…

どこまでもややこしいNASAの将来ですが、引き続き経過を追って、最終的な着地点まで見届けたいと思います。

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ドナルド・トランプ大統領と火星への道のり

2016年11月9日、アメリカ大統領選挙に共和党のドナルド・トランプ氏が当選し、第45代米大統領となることが決定しました。米大統領戦に勝利するには政党が結束していることが必要だと思っていたので、共和党大物議員が次々と不支持を表明したトランプ候補が当選したことにはとても驚いていますが、選挙結果は選挙結果です。

決まったからには、トランプ新大統領がどのような宇宙政策を主導するのか、その方向性について考えてみたいと思います。

困ったことに、候補者であったときからトランプ氏は宇宙政策についてほとんど具体的な案を示していません。Scientific AmericanSpaceNewsなどいくつかのメディアが大統領選の最中に質問していますが、トランプ氏は抽象的かつ短い回答をしているにとどまっています。例えば有人宇宙政策はどうするのか、NASA予算は拡大なのか縮小なのか、といったことには「現状の問題については答えられない」としています。2020年代に小惑星へ、2030年代に火星へ、という現在の目標に対する回答は「就任後は、宇宙計画について包括的なレビューを行い、議会と共に宇宙ミッションとその優先度を決定する」と答えているのみ。クリントン、トランプ両氏の宇宙政策に関するメディア記事をまとめたForbesの記事によれば、要するにトランプ氏のこうした態度は「宇宙への関心の欠如を示しているのではないか」としています。

とはいえ、大統領に就任するからには、宇宙政策を放置、NASAは勝手にやって、というわけにもいきません。また、「アメリカを再び偉大にする」と打ち出しているからには、世界の宇宙開発を主導していると考えるアメリカの立場を積極的に放棄するということも考えにくいです。「ビジネスマンとして」とコメントしていることからも、産業と科学技術の分野で後退すると受け取られる施策も取りにくいでしょう。ただ、コストとベネフィットを勘案して、最大の効果が上がるようにするとはいっています。

情報や手がかりがない中で予測するのはあまり良いことではないかもしれませんが、あえてこの「関心は特にないが、後退しているようには見られたくない」ということを実現しようとした場合、どんなことをするのか考えてみたいと思います。

そこで考えられるのが、4年の任期終了後に設定されているような大目標には手はつけないが、その道程に計画されていることには手をいれる、という方法。アメリカがいま抱えたり検討している大きな宇宙プログラムには、2030年代の有人火星探査、2020年代の有人小惑星探査、木星の衛星エウロパの無人探査、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)、国際宇宙ステーション(ISS)の2024年までの維持と民間宇宙輸送の推進、などがあります。

この中で、火星有人探査が最大規模の目標であることは間違いないと思いますが、ここには手を付けないのではないかと思うのです。「火星にアメリカ人が一番乗り」はとてもわかりやすい目標ですし、火星をやめてどうするのか、という問題もあります。ここで月をもう一度有人探査の目標にしてしまうと、ルナ計画を再開して月面基地計画を進めるというロシアや中国との競争になってしまうのです。

エウロパの無人探査については、目標にはあえて手を付ける必要もないし、議会と協調して予算を理由に実現を先延ばししてもどちらでもよいというところではないでしょうか。ISECGの国際宇宙探査ロードマップ(もうすぐVer.3が発表されるとのことですがそれにしても)を見ても、木星をターゲットにした大目標をもっている国はアメリカ以外になく、ジュノー(木星)、ニュー・ホライズンズ(冥王星とカイパーベルト天体)の実績を持つアメリカ以外の国が、トランプ大統領の任期中に彗星のように抜き去っていく、ということはちょっと考えにくいからです。

ISSについては、すでに民間へ宇宙輸送を委託するCOTSが始動していることから、産業育成の点からいっても民間移譲の流れでこのまま進めていくと思われます。また、JWSTは完成まで押し詰まっており、予定通りならば任期真ん中の2018年打ち上げです。任期中にハッブル宇宙望遠鏡の後継機として世界最高性能の宇宙望遠鏡打ち上げに立ち会う大統領、という立場を捨てる理由もないでしょう。

と、いうわけで米大統領としてトランプ氏は現在の宇宙政策を拡大路線で進めて行くようにも思われますが、ここで考えたいのが、2030年火星有人探査という目標を実現する、その方法です。つまり、Space Launch System(SLS)とOrion宇宙船の開発です。

SLSは実現すればアポロ宇宙船を打ち上げたサターンVを超える世界最大級のロケットになる予定ですが、予算超過と計画の延期が何度か問題になっています(JWSTもたびたび延期しましたが、こちらは完成間近)。無人モジュールEM-1を搭載した試験機初打ち上げは2018年末に予定されていますが、上段を改良しての実用機の打ち上げは早くとも2021年以降。アメリカで人気の天文学者フィリ・プレイトさんもこの問題を取り上げたことがあり、「一宇宙ファンとしてはSLSはエキサイティングだけれども」としながらもその実現に疑問を呈しています。

ここで、もしもトランプ大統領と議会がSLS計画の見直しを打ち出し、火星有人探査の目標はそのままに、手段をSLS以外のもっと費用対効果の高いものにする、といえば、かならずしも「宇宙(科学)オンチの大統領の暴挙」というよりも、英断と評価される可能性もあると思うのです。

しかも、SLSを推進するNASAの中にも、SLS反対派がいます。現在はNASAを離れていますが、元NASA副長官のロリ・ガーヴァーさんはSLS中止を主張する論者で、元宇宙飛行士であり有人宇宙探査協力推進派のチャールズ・ボールデン現長官とは異なる立場をとっています。

NASA長官は米大統領が任命するので、ここでボールデン長官の後にガーヴァーさんをNASAへ呼び戻すとしたらどうでしょう? もともとガーヴァーさんもオバマ大統領が任命した人ではあるので、応じるかどうかはわかりません。ただ、NASAを率いるだけの実績を持つ人の中にも、SLS中止の側に立つ人はいるわけです。また、アメリカ政府機関の中でも世界的に知名度、人気の高いNASA長官に女性を登用すれば、女性に人気がないともいわれるトランプ氏にとってはひとつの評価点になるかもしれません。

では、SLSをやめて火星はやめないとすれば、どうやって火星へ行くんだという疑問は当然でてきます。ここから先は憶測の上に憶測を重ねるようなことになりますが、COTSで有人輸送技術を手にした後に、火星有人探査を目標としている民間企業がありますね、とは思います。

もう一つ懸念があるとすれば、SLS/Orionでの火星探査の前に、その前段階として予定されている小惑星探査(Asteroid Redirect Mission)ですが、これは大きな後退を余儀なくされるということです。せっかく日本の「はやぶさ2」と同時期に小惑星探査機OSIRS-RExを打ち上げているアメリカがそうなってしまったら残念なのですが、先行きに対するヒントは、まだ見つかりません。

宇宙天気と人的被害:2002年アフガニスタンでのアナコンダ作戦に影響

宇宙天気が人命に被害をもたらすとは大変衝撃的なことです。2014年9月24日付のTHE CONVERSATIONに”Bad space weather may have caused fatal Afghan gun battle(宇宙天気の悪化がアフガンでの致命的な戦闘を引き起こした可能性”という記事が掲載されています。

記事の元は、Wiley Online Libraryに掲載されたAGUのSpace Weather関連の研究成果です。”Progress toward Forecasting of Space Weather Effects on UHF SATCOM after OPERATION Anaconda“。「アナコンダ作戦後に宇宙天気がUHF 衛星通信に与える影響の予測に向けての伸展」といったところでしょうか。

発端は2002年、アフガニスタンでアメリカ軍が実施したアルカイダ、タリバン掃討作戦「アナコンダ作戦」中に、「Takur Gharの戦闘」と呼ばれる事件が発生しました。DoDの記事によると、2002年3月4日にアフガニスタン東部の山岳地帯、3000m級の山頂Takur GharへMH-47E チヌーク(コールサイン:Razor 03)がNavy SEALsの兵士と空軍のコンバット・コントローラーを移送しようとしていたところ、着陸間近に展開してたアルカイダ兵の攻撃を受けました。同機は損傷しつつその場を離れますが、SEALsの隊員でニール・ロバーツ一曹がヘリコプターから転落してしまいます。7km離れたところに着陸した同機は、ただちに別のヘリコプター、コールサイン:Razor 04により空軍のコンバット・コントローラー隊員ジョン・チャップマン二等空曹とSEALs隊員から成るロバーツ一曹の救出隊を組織します。しかし転落現場で救出隊もアルカイダ兵と戦闘になり、チャップマン二等空曹は死亡、SEALs隊員も負傷しました。さらに2機のMH-47Eと23人の救出隊が組織されますが、こちらも激しい戦闘になり多数の死傷者を出しました。その後に判明したところでは、ロバーツ一曹は転落後間もなく、銃撃戦の中で死亡していたということです。(固有名詞や階層に誤りがある場合はご指摘ください)

発端となったMH-47E Razor 03には、”hot”な地帯を避けて着陸するよう繰り返し衛星通信を介して警告が送られたということですが、通信障害のため警告が届かず、MH-47E機は危険な地帯に着陸を試みて攻撃された、と研究には述べられています。事件後の調査では、警告が届かなかった原因は山岳地帯の地形による通信条件の悪さと、ヘリコプター搭載の通信機器ではUHF電波に十分な出力が得られなかったため、と結論付けられたそうです。

この問題を、12年後に別の側面から検証したのが上記、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所のMichael A. Kellyらによる、宇宙天気との関連に関する研究です。アブストラクト及び解説記事を総合すると、アナコンダ作戦は1996年から2006年までの太陽活動サイクル 23ピーク期間中に実施されました。この期間、2002年3月4日には「電離層プラズマバブル」と呼ばれる電離層の擾乱が発生し、通信障害を引き起こしたというのです。この時期の電離層擾乱を観測したのは、2001年に打ち上げられたNASAの”熱圏・電離層・中間層エネルギーとダイナミクス”観測計画「TIMED」衛星です。

解説記事によれば、プラズマバブルとは電離層の高密度の領域の中に、急激に密度の低い部分が下から泡のように上昇してくる現象とあります。緯度の低い地域で日没後に発生し、電離層の密度が一様でなくなると、電波の位相の乱れを引き起こすということです。GPSなど航法衛星の測位精度の低下を引き起こす原因となります。衛星通信でも同様で、プラズマバブルによる電波の位相の乱れと現地山岳地帯でのマルチパスが合わさり、米軍が使用していたUHF静止通信衛星の電波のSN比が大きく変動して通信ができなくなった、ということです。

THE CONVERSATION より。電離層プラズマバブルが電波(画像ではGPS測位信号)に与える影響の模式図

研究はここから一歩前進し、電離層プラズマバブルの活動をシミュレートするモデルを構築し、将来の軍事作戦などに役立つ「宇宙天気予報」の発展に努めようというものです。宇宙天気というと、お決まりのように「太陽フレアの影響でGPSの精度低下や通信障害が発生する可能性があります」といった警告を報道などで見かけます。言葉の意味はわかっても、実際にそれで何が起きるのかなかなか想像しにくいものがありますが、このように具体的かつクリティカルな局面での影響を示されると、少しだけ実感しやすくなるように思います。

MASCOT/はやぶさ 2とフィラエ/ロゼッタはどう違うの?

DLRよりトラミ・ホーさん(左)とJAXA 宇宙科学研究所の吉川真先生

DLRよりトラミ・ホーさん(左)とJAXA 宇宙科学研究所の吉川真先生

8月31日、JAXA 相模原キャンパス(宇宙科学研究所)にて「はやぶさ2」のフライトモデルが報道関係者に公開されました。私も参加してレポートをかきました。

早ければ12月に宇宙へ!『はやぶさ2』フライトモデルの機体公開(週刊アスキーPLUS)

「はやぶさ2」のミッション内容が詳しく紹介された中で、今回は欧州・ドイツ航空宇宙センター(DLR)とフランス国立宇宙研究センター(CNES)よりランダー「MASCOT」についても紹介がありました。わずか10kgのボディの中に4つの観測機器、ミッション機器の重量比が3割(これはすごいことなのだそうです)もあるというMASCOT。はやぶさ 2から小惑星 1999 JU3の表面に投下され、広角カメラや近赤外分光器での観測を行います。

MASCOTには、欧州挙げてこの11月に挑む彗星着陸探査「Rosetta」の着陸機「Philae」といくつもの共通点があります。Philaeの開発の中心がDLRだという点もそうですが、Philaeに関わった研究者で、MASCOTを共通して担当している人もいるということです。

彗星と小惑星の違いはあっても、同じ太陽系の小天体に着陸して探査を行うPhilaeとMASCOT。いずれ、67P/ チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(Rosettaの目的地)と1999 JU3(はやぶさ2の目的地を比較した成果が出てくるかもしれない、と今から勝手に楽しみにしています。

MASCOT/はやぶさ 2の公開に際して、欧州からDLRよりトラミ・ホーさん、CNESよりミュリエル・ドゥルーズさん、両プロジェクトリーダーが来日されました。この機会に、ふたつのランダーの違いと共通点は? とうかがってみました。

CNESよりミュリエル・ドゥルーズさん

CNESよりミュリエル・ドゥルーズさん

-フィラエとマスコット、両者の違いと共通点はどんなところでしょうか?

トラミ・ホーさんより;
「MASCOTは、フィラエの10分の1の大きさで、フィラエが100kgあるのに対し、MASCOTは10kgしかありません。フィラエが彗星に着陸する際には、アクティブランディングを行います。”アクティブ”とは、小惑星や彗星の表面に着陸する際にGNC(誘導・航法・制御システム)を使用するということです。MASCOTの場合は、はやぶさ 2から切り離された後は、落下するだけになります。わずか100mの高さから落下し、ひっくり返ります。カメラやMicrOmegaなどの観測機器が下を向いていたとしても、姿勢が上向きか下向きか決めることはできません。そこで、MASCOTの間違った方が下を向いてしまった場合には、ひっくり返って、機器は下を向くというわけです。フィラエの場合、脚を持っており彗星ではその上に着陸しますから、すぐに活動を開始することができます」

「フィラエは太陽電池を持っており、長時間活動することができます。MASCOTは一次電池だけですから、活動時間は16時間です」

「サイエンスの観点からいえば、フィラエとMASCOTにはいくつもの共通の機器があります。MASCOTのMicrOmegaは鉱物学の調査を行うもので、似ているものとしてフィラエのCIVA、これも彗星の鉱物学の調査をおこないます。どちらの機器も(彗星や小惑星の)表面の性質を調査するものですが、フィラエが10の観測機器を持っているのに対し、MASCOTは4つ。サイズがとても小さいのです。MASCOTはホップできますが、フィラエは直立したまま、片側に観測機器がついています」

ということで、想像以上に兄弟のような関係なのですね。それでは、MASCOTと、そしてまずはPhilaeの活躍を祈ります。

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※インタビュー書き起こし

-Would you tell me compare and comparison between Philae and MASCOT?

MASCOT weight 10 times smaller than Philae. Philae has 100 kg and MASCOT has only 10kg.When Philae is landing on the comet, it will do active landing. “Active”, it has got GNC to land asteroid surface and comet surface. As MASCOT will be separate from Hayabusa 2, but it will fall. So it falls from altitude only 100 m fall downs. And it will just tumbles down, it will not determine attitude, it be raised up or down, because you have got instruments like camera, which has looked down in MicrOmega, So MASCOT have wrong side, the MASCOT will flip, so instruments will see down. As Philae has got legs, Philae come down on the legs on the comet, and it can operate immediately. Philae has solar panels, it will survive very long. MASCOT has only primary batteries, will survive only 16 hours. And then from a scientific point of view, a lot of instruments which are similar on Philae and MASCOT like you have MicrOmega is determined of mineralogy. Similar to, for example, CIVA on Philae, which is also determine of mineralogy of the comet. Also the property of surface investigated by both, but Philae is carrying about 10 instruments, and MASCOT only 4. So size is small. MASCOT can hop, but Philae is stand, only investigate one side.

※GNC:Guidance, Navigation & Control system

音声からの書き起こしですので、文章にあいまいなところもあるかと思いますがご容赦ください。

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おはようロゼッタ 冬眠開け通信成功!

日本時間2014年1月21日午前3時18分、ESAの彗星探査機ロゼッタからの冬眠開け通信が届きました。

ESOC中継をずっと見ていました。予定では午前2時に探査機は通信を始めるはず。午前2時30分に通信ウィンドウが開いて、電波が届くのに45分。予定では2時45分以降に探査機の第一声が聞かれるはずなのです。

なかなか表れない……。通信を担当しているのはNADAのDSNで、ゴールドストーン局からのモニターにピコーンと波形が立つはず。ツイッターで「音声がないようですが」との質問があったくらい、ESOCのみなさんはずっと息をひそめてモニターを見守っておられました。

最初のウィンドウ開始から48分、心配になってきたころ画面から歓声と拍手が。ロゼッタ運用マネージャのAndrea Accomazzoさんがガッツポーズをしていて、やった! という感じ。こういう時の様子に国の違いはあまりなくて、「うちの子がやったよ!」感にあふれていたように思います。

探査機のミッションをリアルタイムで見守って、達成を分かち合う機会というのはそうしょっちゅうある機会ではありません。見ていてよかった。楽しかった。

おめでとう、ロゼッタ冬眠からお目覚め。彗星到着、そして初の彗星探査もきっと見守ります!

ロゼッタからの通信が届いた瞬間。

ロゼッタからの通信が届いた瞬間。

エドウィン・ハッブルと猫のコペルニクス

 

ハンティントン・ライブラリー収蔵。1953年撮影の天球儀とエドウィン・ハッブル、猫のコペルニクス

 

1年ほど前のことです。ディスカバリーチャンネルの番組「科学は歴史をどう変えてきたか:宇宙」を観ていましたら、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)にその名を残す天文学者エドウィン・ハッブルが紹介されました。天球儀を前にしたハッブル晩年の写真です。しかし……膝の上に天球儀より目をひくものが。ぽっかり浮かぶ目が見えて、明らかに黒猫を抱いています。

「クロネコだっこしてる!」

ハッブルが猫好きだとはついぞ知りませんでした。

探してみると、写真はハッブルの論文や遺筆を収蔵したハンティントンライブラリーに収蔵されているものです。ハンティントン・ライブラリーblogの「ハッブルとコペルニクス」によると猫の名前はニコラス・コペルニクスといい、もちろん天文学者からつけられた名前だそう。記事ではThe part-Persian leviathanということなのでペルシャの血が入っていて、わりとやりたい放題していたようです。

ハッブルは、歳とってから飼いはじめたコペルニクスを奥さんともどもとても可愛がっていたそう。「すべての猫には専用ドアがなくてはならぬ」と主張して専用ドアを用意してやり、パイプクリーナーで遊び(モール状のブラシでじゃらしてやったわけですね)、書き物をしているハッブルの机の上にコペルニクスが長々と寝そべっても「手伝ってくれてるんだよ」と目を細めていたとか。

コペルニクスはわりとワイルドな猫でトカゲやら鳥やらネズミやらをせっせと捕ってはハッブルにプレゼントしていたとか。「天文学者と同じで、夜中のランチが好きなのです」とハッブル夫人グレースさんは書き残しているそうです。お客さんがあまり好きではなかったようで、「マクベス」を読みに訪れたオルダス・ハクスリーが爪の犠牲になったと……大丈夫でしょうか。しかしエドウィン・ハッブルとオルダス・ハクスリーには親交があったのですね。

ハッブルはかなり歳をとってから猫を飼い始め、コペルニクスより先に亡くなっています。窓際の席でずっと帰りを待っていたコペルニクスは、それから9年後のクリスマスイブまで生きていたということです。

ISSを2024年まで運用延長:発表全文

2013年9月17日、来日し東京大学で講演したNASA チャールズ・ボールデン長官 (撮影:小林伸)

2013年9月17日、来日し東京大学で講演したNASA チャールズ・ボールデン長官 (撮影:小林伸)

2014年1月9日・10日の2日間にワシントンで開催されたIAA Space Exploration Conferenceにあたり、前日の1月8日にオバマ政権が国際宇宙ステーションの2024年までの運用延長を打ち出しました。
アメリカ議会はこれを了承するのか? ISSに2024年まで費用をかけると、SLS/Orionを継続できなくなるという予測もあるがどうするのか? 日本を含めてどこまで参加各国がついていくのか? 技術的には、ISSは2028年まで運用できるということだがそれはどんな保証によるものか? さまざまな疑問がありますが、まずはなんといってもアメリカ(オバマ政権とNASAボールデン長官)がなんといっているのか、文言を読んでみないことには始まりません。
報道ですとどうしても省略されてしまいますから、例によって自力で読みこんでみることにしました。自分のためのものですから荒っぽいものではありますが、要素となる語句は落としていないつもりです。
しかし、清々しいほどアメリカの国益のことしか書いてありませんね(当たり前ですが)。それはまあ当然ですので、ここから何を引き出せるのか、まずは考える材料となればと思います。

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オバマ政権、国際宇宙ステーションを少なくとも2024年まで延長

1月9日から10日まで、ワシントンに世界30カ国以上の宇宙機関の長が集まり、将来の宇宙探査に関する史上初のサミットを開催するにあたり、オバマ政権が国際宇宙ステーション(ISS)を少なくとも2024年まで延長すると承認したことを喜びとともにお伝えします。我々は、ISSのパートナーが少なくとも次の10年までの延長の取り組みに参加し、この他に類を見ない軌道上実験室において、画期的な実験の実施を継続するであろうと希望、楽観視しております。

ISS運用の延長により、NASAと国際宇宙コミュニティは数多くの重要な目標を達成できるでしょう。

第一に、NASAはISSで、地球低軌道の先にある計画中の、2025年までに小惑星へ、2030年までに火星へといった長期間の有人ミッションに必要な研究活動を完了します。NASAは、長期のミッションで予見される32の人体への健康リスクのうち、21項目を十分に低減するにはISS上の研究が必要と考えています。それと関連するISSの重要な機能とは、人間が深宇宙で安全かつ生産的に活動するために必要な宇宙機システムと技術の試験を行うことです。2024年までのISS延長により、こうしたシステムを成熟させるために必要な時間を得られるでしょう。

第二に、ISS延長は宇宙ステーションから社会的利益へ至るより流れをさらに広げます。ISSで実施された研究は、すでに医学や産業へ影響する重要な数多くの発見をもたらす結果となりました。医学の例では、サルモネラ菌や細菌の抗生物質耐性株に対する潜在的なワクチンや、健康な細胞には影響を及ぼさずにがんの腫瘍へ薬剤を届ける治療のためのマイクロカプセル化技術などがあります。さらに、ISSの先端技術は、これまで手術不可能だと考えられていた腫瘍を取り除くロボット手術の開発にも道を開いています。

ISS延長の将来的な利益とは、NASAと民間宇宙開発パートナーに対し、貨物と人員を地球低軌道へ輸送する商業宇宙産業へのさらに十分な移転の時間をもたらし、NASAは深宇宙探査のための次世代ヘビーリフトロケットと有人カプセルの開発に集中できるようになるということです。

すでにふたつのアメリカ企業がISSへの補給契約を結んでいます。現在の貨物輸送契約は、2016年、2017年の期限に終了しますが、ISSを2024年まで延長すれば、さらに多くのフライトをISS貨物輸送サービス契約に追加することができるようになり、より競争力のある価格設定となり、新しい民間の入札者も参加可能になって最終的にはもっと多くの合衆国の商業衛星打ち上げへ繋がるでしょう。

合衆国国土から宇宙ステーションへアメリカの宇宙飛行士を打ち上げることは、オバマ政権にとって最優先項目であり、民間企業が私たちの宇宙飛行士を軌道上へ運ぶ認可へと大きな一歩を踏み出しています。初の商業有人飛行は2017年に予定されており、一部はわずか3年間の商業有人飛行への投資を疑問視しています。2024年までISSを延長すれば、付帯するフライト回数も増加し、フライト1回当たりのコストを引き下げ、投資はもっと魅力的になるでしょう。

ISSはまた、地球とその気候の変動に関する研究において、ますます重要な役割を果たしています。今後の数年間に、ISSはSAGE III( Stratospheric Aerosols and Gases Experiment:成層圏エアロゾルとガス実験)やRapidSCAT(ocean winds measurement instrument:海洋風測定器)、OCO-3(Orbital Carbon Observatory:軌道上炭素観測衛星)、CREAM(Cosmic Ray Energetics and Mass experiment:宇宙船エネルギー論と質量実験)、CALET(Calorimetric Electron Telescope:カロリメータ型宇宙電子望遠鏡)といった地球と宇宙科学を研究する機器を迎えます。2024年までISSの安定性と可用性を確実にすることで、科学コミュニティにISSというプラットフォームは長期間の研究の努力にとって重要なものになり得るという信頼を与えるでしょう。

最後に、ISSの延長は今後の有人宇宙飛行における合衆国のリーダーシップを凝集していくことでしょう。ISSは、史上もっとも複雑かつ挑戦的な工学的努力の結集です。その成功のカギとは、NASAの創意工夫と国際協力のコンビネーションンにあります。15カ国のパートナーと現在68カ国の1回またはそれ以上のISS利用国による、この他に類を見ない軌道上実験室は、平和的な国際協力によって達成することができた、明らかな人類にとっての利益の実証です。アメリカがそのリーダーとして、このままこのパートナーシップを維持することは重要です。宇宙でのリーダーシップは、経済的発展、技術的優位、国民的プライド、より広範な世界におけるアメリカのリーダーシップへの貢献をもたらすのです。

ISSは、巨大な科学的、社会的利益を提供する他に例のない施設です。少なくとも2024年まで運用を延長するというオバマ政権の決断は、その潜在的な可能性を最大化し、国家と世界にとって欠かせない利益をもたらし、宇宙におけるアメリカのリーダーシップを保持することができるでしょう。

ジョン P. ホールデン
科学技術担当大統領補佐官
科学技術政策局局長

チャールズ・ボールデン
NASA長官

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追記:タイトルが「2014年」になっていました。ご指摘いただいて2024年に修正いたしました。お恥ずかしい。