カメラマンが追い込まれると巻き込まれかねないこと

※本エントリは、性風俗産業に関連する業界についての言及があります。そうした記述を不快に思われる方は、以後の購読はされないようおすすめします。

このブログでも何度か言及している仕事上の相棒のカメラマンですが、昨今では写真業界の仕事も大変厳しく、フリーランスとしての営業のほかにスタジオ、制作会社付きカメラマンの仕事を求めることもあります。そうした中で、数ヶ月前に経験したあるおかしな求人について記録しておきます。

そのとき、彼が見つけたのは写真スタジオ付きカメラマンの求人の口でした。自宅から通える場所にあり、日給1万数千円と比較的条件がよかったので、応募してみることにしました。その写真スタジオは、風俗店向けの制作業務を専門にしているところです。従業員の女性の写真撮影、レタッチ等による修正が業務の主な内容でした。つまるところ、風俗情報誌や風俗店Webサイトの制作実務のような仕事だと思っていただければよいかと思います。彼はヌードを含めた人物撮影の経験が多く、風俗営業そのものは特に好んでもいませんが、現状で賃仕事としてはありうると考えて応募したわけです。

応募に対して先方からメールでコンタクトがあり、カメラマンとしての経歴、実績などについて問い合わせがありました。しかし、それだけではないというのです。募集内容の撮影・レタッチのほかにスタジオの空き時間には「SEO作業を行ってもらうが了承できるか」「タッチタイピングは可能か」というのです。

カメラマンとしての業務のほかに、(社会人として)スタジオの電話番から伝票作成、スタジオ管理など事務方もやってくれというのなら話はわかります。しかし、SEOというのはカメラマンに求められるスキルとしては理解しがたい部分があります。同じデジタル、というのはあまりにもざっくりしすぎる分類です。

カメラマンに求められるスキル:デジタル暗室(RAW現像)、レタッチによる修正、切り抜き加工などデザイン用の下ごしらえ、カラーマネジメントなど
SEOに求められるスキル:検索エンジン向けのコンテンツ最適化、検索クエリ別のランディングページ最適化、アクセス解析結果に合わせたコンテンツ修正、検索連動型広告への出稿など

出版・広告関係には、隣接するスキルを求められて次第にスキルの幅を広げていったという人はそれほど珍しくありません。カメラマンが次第にデザイン関係のことも学んで、ディレクターとして活動するようになったとか、ライター兼編集者といった人は大勢います。しかし、上記の二つは同じデジタル、とかいうレベルの関連ではありません。SEO作業はどちらかといえばWebディレクター、Webデザイナーに求められる作業です。彼はデジタル写真の分野では早くから経験を持ち、基本的にRAW撮影でJPEG撮って出しはあまりしないタイプのカメラマンですが、業務の中でSEOと関わったことはありません。「カメラマン募集」でSEOスキルワーカーが応募してくると考えるのは余りにも無理があります。せめて「Webディレクター 写真撮影経験者」といった募集をしないかぎり、都合よく両方のスキルセットを持った人材が来るとは考えにくいのです。

意外なことを求められたため、彼は「SEO業務とは何のことか。具体的に何を行うのか」問い合わせを出しました。すると途端に、「求める人材ではないため」と先方から断られました。どうも、何かおかしな求人です。

ここから先は、憶測がかなり入ります。検証することができないため、一個人の推測だと思っていただければと思います。

カメラマンだという経験を脇に置くと、彼が求められたのは「タッチタイプができる」だけの素人デジタルワーカーです。主体的にWebページを制作できるスキルワーカーではありません。では、そうした人間にも可能なSEO作業とは何でしょう。

スパム発送作業だと思います。

 コメントスパム、トラックバックスパム、あるいは古典的なスパムメールかもしれません。最近ですと、Facebookの身分詐称アカウントからの友達申請は珍しくありませんし、Twitterにスパム誘導のための釣りアカウントではないかと思われるアカウント名がずらりと並んでいるのも見たことがあります。こうしたメッセージを大量発送して、1件でも風俗店サイトへの誘導を増やすこと、それを「SEOだ」と強弁しているのではないかというのが私の考えです。

メーラーにせよSNSツールにせよ、機械的な大量発送は対策済みのようですが、それならと人力での手当たり次第スパム発送に戻ってきているのではないでしょうか。素人スパマーに求められる能力はといえば、入力の速さだけでしょう。女性名で性別プロフィール:男性のまま友達申請をよこすFacebookアカウントをみれば想像がつきます。創意工夫など何もないのです。なくて幸いですが。

上記は「SEO業務っていったい何をさせる気だったんだ?」と彼から相談を受けたときに私が推測したことです。特に検証を行うつもりもありませんので推測のままにしておきますが、例に挙げた求人の口は、断られてかえってよかったというのが私の正直な感想です。

もしも、こんなところが入口となってスパム業者の片棒担がされる人間がいるとすれば、それはとても残念なことです。「SEOという言葉も知らないようでは使い物にならない」「何か探りを入れてきた、面倒くさいタイプだ」どう思われたのかまではわかりません。何にせよ、今回は主体的に彼が断わらなくても向こうから断ってきたのでよかったというところでしょう。こうした経験を表に出すことが良いのかどうか二人で相談しましたが、推測も含めて考えていただける材料になればと思っています。

カメラマンは食えなくなっているのか?

3月3日、昨夜から今朝がたフォローしているタイムラインでは研究職の安定性の問題が話題になっていました。直接関係があるわけではないのですが、以前にタイムラインで「フリーカメラマンて食えてるの?」 という疑問を見かけたので連ツイしたものをまとめてみます(ツイートだと読みにくかったですね)。私これでもカメラマンの女房ですし。

リンク先のPDFは国勢調査を元にした職業小分類別の就労者数推移です。カメラマンは「43 写真家、カメラマン」の項ですね。スチールとムービーと両方入っているはずです。2010年の最新の国勢調査では6万5000人、日本にはカメラマンがいることになってますね。
ちょっとわからないのは、フリーランスかどうかを反映しているのかということ。社カメの方はまず「会社員」と回答すると思うのですが、さらに業種で区別して業務内容が写真業だったら小分類43に入れるのかしら。とりあえず大方フリーだと思っておきます。
確定申告の職業欄ベースならほぼフリーだとおもうんですけど、申告してないフリーランスもいるしなあ。

さて就労者数ですが、1980年:4万6000人、1985年:5万5000人、1990年:6万3000人、1995年:6万6000人、2000年:6万7000人、2005年:6万7000人、2010年:6万5000人。
’80年から’90年まで8~9000人ずつ増えてますね。5年で2割近く就労者数が増えていくわけだからそれだけ需要多かったということですね。80年代の雑誌ブームを反映しているんでしょうか(スチールの方の事情なので、ムービーの方の事情はちょっとわからないです)。

旦那さまはこの間にスタジオマンから師匠のところに行ったりした修業時代でした。ちなみに、日本でもかなり初期からCD-ROM写真集を試みたところです。80年代後半はバブルのころなので、仕事は引きも切らないし羽振りのいいことも相当あったようなのですが、このころからフリーの食える/食えない問題というのはありました

1990年前後あたり、旦那が友達と鍋を囲んで、珍しく豆腐やら肉やら入れた鍋にしたところ、先輩カメラマンが「お、今日の鍋豪華だな! どうした」「失業保険もらったんで具材買ったんですよ」「俺、お前の失業保険で鍋食わしてもらってんのか……」と先輩が涙した、という話がありました。豪華といっても、白菜とネギばかりの鍋に豆腐と豚コマが入ったとかそういうレベルですけれどもね。
先輩がなぜそんなに困窮していたのかというと、賞をとって評価を受けたものの、ギャランティ面で「でも、お高いんでしょう」ということになって仕事が減ったからだというんですね。もちろん賞をとってきちんと評価されないとカメラマンとしてのキャリアも続かないのですが、若手や中堅から一歩進む段階では、一時的にそういうバランスが崩れることがあるということです。しかしそれは一時的なものですね。全体では需要があるから就労者数が増えるわけです。そして1995年、2000年と伸びは鈍化しますがまだ増えています。4%増、1.5%増って曲がりなりにも写真家は専門職で参入のハードルが低いわけでもありませんし、伸びとしてはそれなりだと思いませんか。

このころ、徐々にDTPをきっかけにデジタル化が始まって、カメラ機材と感材の経費に変化がおきてきます。90年代だとまだファッション誌あたりではあんまりデジタル信用されてない、対応してないころでしたが、出版でのデジタル移行はすこしずつ始まっていましたしね。私もフィルム入稿の経験がある最後の方の世代じゃないかなと思います。
机の引き出しにダーマト(ダーマトグラフ:芯にワックスを含んだ色鉛筆、ポジフィルムのスリーブの上に描きこみするのに必要)が眠ってる、とか笑い話が通じる最後の方ですね。さて、世の中はバブル後ですが、2000年前後だと「出版はバブル崩壊の影響を受けにくい」なんてことも言われたりしましたし、ITブームが起きて世の中その流れについていくのにメディアもかなりがんばっていたわけです
旦那はIT関係の出版社とかかわりがあったわけで、取材が多くて要は需要があったんですよね。一日3階建て取材とか普通にありました。忙しかった。デジタル化で現像を自分でやらないといけなかったので、手間はかかるようになった。手離れというか、1件あたりの作業時間に対する単価は下がりつつあったと思います。
ただ、デジタルになったので感材費はかからなくなって、ランニングコスト的な経費は減ったかもしれません。結婚した当初、2000年くらい(もう少し後までかな)までは私も確定申告のときに旦那と相談して勘定科目に「感材費」を作ってプロラボ代をつけていたりしたんですが、だんだんそれがなくなっていきます。
デジタルの方が機材の陳腐化が激しいので設備投資というか減価償却資産に入るものはけっこうかかるんですけどね。現在の旦那の実感だと「3年ごと50万円」だそうです。ただ、毎月出ていくフィルム代は大きかったですからねえ。

さて2000年代前半までフリーを食わせていたメディア需要ですが、だんだん息切れというか続かなくなってきますよね。わかりやすいくらい、2000年と2005年就労者数が同じです。人増やすほど需要がなかったってことですよね

で、旦那も息切れw 2000年代の真ん中で体を壊します。無理がきかなくなって仕事激減、2008年まで私の方の仕事が件数増えて補えたんですが、2008年9月に何があったのかはもうわざわざいいません。
その後出版産業が2兆円を割り込んで、広告という最大の製作実務が減って、人はどんどん追い出されて2010年、ついにPDFスタートの1970年から40年間伸び続けていた写真家・カメラマンの就労者数が減少します。2000人が業界から出て行ったということです。いやあもう、カメラマン個人の家計に与える影響は推して知るべといいたいです。

カメラマン個人の平均年収はなんとも言えません。私は数字を持っていませんので。しかし仮に平均が年収500万円としましょう。ピンキリの世界ですが、経費の分、会社員平均より少し多いと思いますので。500万円×2000人、100億円分この業界は人を食べさせていくことができなくなったと、まあそういうことじゃないかなーと国勢調査をつらつら眺めて思うわけです(この考え方であってますか?)

そんな中でこれからどうなるのかなあ。いろんな浮き沈みを体験したんですけどこれから先は不透明すぎてよくわかりません。まじめにやってりゃいいというものでもないし、かつ個人の資質の部分も大きいけど、業界がシュリンクしている中で椅子取りゲームの敗因を全部個人のせいにされるのも釈然としないものがあります。
てなところです。これまでの経緯とか記憶頼りの部分もありますけど、これは個人が身の回り半径2mくらいで物言ってるということで勘弁してください。ちなみにPDFの第一項は「1(1) 自然科学系研究者」です。就労数変化っていろんなもの反映してるんですよね、きっと……。