フリーランスとセクシュアルハラスメント

東京都議会でのハラスメント野次問題の直後です。この件が今後、どういった影響を世の中に与えていくのかまだわかりませんが、関心と議論は以前よりさらに高まっているように思えます。この機会に私自身のフリーランスライターとしての活動とかかわりのある体験について、整理しておこうと思います。

私がフリーランスライターとして活動を始めてから、そろそろ19年になります。それなりに長い時間、フリーライターとして働いてきたわりには、私はセクシュアルハラスメントにさらされた経験は少ないと考えているのですが、まったくないわけでもありません。まずは、時系列順に記憶しているケースを並べてみます。

【20代後半】
フリーとしての活動歴がまだ浅かったころ、男性のフリーランス編集者を通して書籍の仕事。数度の打ち合わせ、原稿提出の後に編集者男性から「あなたの文章は未熟だ。自分は新聞記者出身なので、これから通う気があれば文章指導をしてあげよう」と言われた。
→「結構です」と断り、その後はその男性編集者からは仕事依頼もコンタクトも来ていません。当時は相手の意図をはかりかねる部分もありましたが、先輩女性ライターから後に「気をつけた方がいいのでは」とアドバイスをいただきました。あるいは、指導料を求められるといった方面に発展した可能性もあるのではないかと思っています。

【30代前半】
子供が1歳未満のころに、夫に任せて海外出張に1週間でかけた経験を話したところ「何やってるんだ。旦那が怒るぞ」と非難された。
→「え、旦那はいいって言ったよ」とはぐらかしました。この系統のは今でもときどきあって、取材で数日家を空けることがあると話すと「旦那さん、よく許してくれますね」といった反応が返ってきたりもします。「うちはずっとそれでやってますから」と受け流して、それ以上その話は発展させないようにしています。

【30代後半】
上の子の出産時、病院の陣痛室(分娩室に入る前の待機室)で、病院から貰った「陣痛の経過と子宮口拡大」のプリントを握りしめて「今ココ……あとこうなってああなって、あとどれくらい」とこれからどうなるかはかっていた、あのプリントはありがたかった(今でもそう思っています)という経験を話したところ、別の男性に「そんなのおかしい、女じゃない」と笑われた。
→「私のほかにもう一人、微弱陣痛で大変な人がいて……助産師さんたちはそちらにかかりきりだから、私は遠慮したんですよ」と適当に嘘(これは本当は次の子のときの話)ついて受け流しました。

【40代前半】
企業取材の打ち合わせをしていたところ、女性のフリーランス編集者から「あなたは白髪が目立つ。取材相手のおじさん達は、もっと女性らしい容姿の方が嬉しいはずなので、これからも仕事を継続して取っていくために髪を染めてほしい」と求められた。
→かなり直近の話なので、これを書くのは結構リスクなのですが……同時に「これから費用を出すから懇意にしている美容院に行こう」とまで言われたのですが、「作業が押し詰まっています。それどころではない」と断りました。ここで変な力関係をつくると(プライベートも面倒みてあげたのに、といったような)後々面倒なので、この件は再燃しても断ります。リスクは最大見積もっても、今後その女性編集者から仕事が来なくなることですね。
(※女性から女性への言動はセクシャルハラスメントにあたらないと思われる方がもしかしたらいるかもしれませんが、厚生労働省のガイドでは「性的な内容の発言および性的な行動」を「女性労働者が女性労働者に、男性労働者が男性労働者に対して行う場合も含む」となっています)

こうして振り返ってみると、件数ではそれほどでもないですね。また、「どれも軽微な内容でたいしたことではない。もっと重大なハラスメント被害に逢っている人もいるのだから、その程度で騒ぐべきではない」と批判されることも考えられる、微妙な件が多いようです。私自身、そうした批判を恐れてきたと思います。

しかし、上記のケースが「軽微な内容」ですんできたのは、幸運に助けられての要素、たまたまの部分が大きいとも思うのです。結婚して子供がいることを明らかにしているので、夫の存在が抑止に働いていることはおおいに考えられます。私はたまたま、身長が高くて女性の平均を上回っているので与し易しと見られにくい、やや威圧的に思われているのかもしれません。また、家庭に大きな問題を抱えていないときに女性性を否定されてもそれほどのダメージは受けません。さらに、夫は上記のようなケースの後に相手から仕事が来なくなっても、私の態度を非難するよりは「そういう相手とは関わらない方がいい」と肯定的な方です。

リスクというのは、「どちらに転ぶかわからない」ということです。子供の発達などの面で悩みを抱えているときに、出産時の態度を否定されたらそのために「だから私の子供は正常でないのか」といった方向に自分を追い詰めて、結果的に子供に余裕を持って対応できなくなるかもしれません。夫ともめているときであれば、相手にとっては軽い揶揄でも、重大に受け止めて結婚の問題点をすべて底に帰するような考え方をしてしまうかもしれません。また、仕事の発注依頼の維持のために容姿コントロールを受け入れたら、次はその維持のための仕事外の接待を求められるかもしれませんし、どちらにせよそんなことで仕事を維持できる保証はどこにもありません。

最大のリスクは、心身の健康です。フリーランスに基本的には休業補償はないので、集中して原稿を書けない状態になったら終わりです。もちろん、上記のような件はほとんど「降りかかってくる火の粉」ですので、避けようとか「態度をよくしていればそういった目に合わない」といった精神論ではどうにもなりません。そもそも、外見や態度が女性らしければそれ故の被害をうけるでしょうし、私のように女性の平均を外れていれば、「女らしくない、女性の規範に沿わない」と非難されるのですから、セクシュアルハラスメントにあわない正解の態度などというものはありません。

いつ起きるかわからないハラスメントですが、いざという時のためにこうして記憶からときどき引っ張り出して、検証しておくことが役立つと思っています。「あのときの誰それのあの発言は、私の仕事とも私生活とも無関係の、不必要な発言だ。深入りしてこじらせる必要はない。リスクはこの程度あったが、早めに撤退したので被害は小さくて済んだ」とチェックしておけば、次に同じようなことが起きたときに「やばいやつだ」と判断できるかもしれません。対処は、「気が効いた切り返し」などという定義のわからない、誰のためなのかよくわからない行動である必要はありません。「これはセクシュアルハラスメント、人生のアノマリーだ」と早く認識して、自分の人生からさっさと切り離すことだと思っています。気にしないのではなく、いったん気にして異常を検知したので異常事態として処理するという意味です。

本エントリは、そうした私自身の整理のために書いた部分はあります。が、誰でも公開のblogにしておくことでどなたかの検証に役立つこともあるかもしれません。というわけで、ここに置いておきます。

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カメラマンが追い込まれると巻き込まれかねないこと

※本エントリは、性風俗産業に関連する業界についての言及があります。そうした記述を不快に思われる方は、以後の購読はされないようおすすめします。

このブログでも何度か言及している仕事上の相棒のカメラマンですが、昨今では写真業界の仕事も大変厳しく、フリーランスとしての営業のほかにスタジオ、制作会社付きカメラマンの仕事を求めることもあります。そうした中で、数ヶ月前に経験したあるおかしな求人について記録しておきます。

そのとき、彼が見つけたのは写真スタジオ付きカメラマンの求人の口でした。自宅から通える場所にあり、日給1万数千円と比較的条件がよかったので、応募してみることにしました。その写真スタジオは、風俗店向けの制作業務を専門にしているところです。従業員の女性の写真撮影、レタッチ等による修正が業務の主な内容でした。つまるところ、風俗情報誌や風俗店Webサイトの制作実務のような仕事だと思っていただければよいかと思います。彼はヌードを含めた人物撮影の経験が多く、風俗営業そのものは特に好んでもいませんが、現状で賃仕事としてはありうると考えて応募したわけです。

応募に対して先方からメールでコンタクトがあり、カメラマンとしての経歴、実績などについて問い合わせがありました。しかし、それだけではないというのです。募集内容の撮影・レタッチのほかにスタジオの空き時間には「SEO作業を行ってもらうが了承できるか」「タッチタイピングは可能か」というのです。

カメラマンとしての業務のほかに、(社会人として)スタジオの電話番から伝票作成、スタジオ管理など事務方もやってくれというのなら話はわかります。しかし、SEOというのはカメラマンに求められるスキルとしては理解しがたい部分があります。同じデジタル、というのはあまりにもざっくりしすぎる分類です。

カメラマンに求められるスキル:デジタル暗室(RAW現像)、レタッチによる修正、切り抜き加工などデザイン用の下ごしらえ、カラーマネジメントなど
SEOに求められるスキル:検索エンジン向けのコンテンツ最適化、検索クエリ別のランディングページ最適化、アクセス解析結果に合わせたコンテンツ修正、検索連動型広告への出稿など

出版・広告関係には、隣接するスキルを求められて次第にスキルの幅を広げていったという人はそれほど珍しくありません。カメラマンが次第にデザイン関係のことも学んで、ディレクターとして活動するようになったとか、ライター兼編集者といった人は大勢います。しかし、上記の二つは同じデジタル、とかいうレベルの関連ではありません。SEO作業はどちらかといえばWebディレクター、Webデザイナーに求められる作業です。彼はデジタル写真の分野では早くから経験を持ち、基本的にRAW撮影でJPEG撮って出しはあまりしないタイプのカメラマンですが、業務の中でSEOと関わったことはありません。「カメラマン募集」でSEOスキルワーカーが応募してくると考えるのは余りにも無理があります。せめて「Webディレクター 写真撮影経験者」といった募集をしないかぎり、都合よく両方のスキルセットを持った人材が来るとは考えにくいのです。

意外なことを求められたため、彼は「SEO業務とは何のことか。具体的に何を行うのか」問い合わせを出しました。すると途端に、「求める人材ではないため」と先方から断られました。どうも、何かおかしな求人です。

ここから先は、憶測がかなり入ります。検証することができないため、一個人の推測だと思っていただければと思います。

カメラマンだという経験を脇に置くと、彼が求められたのは「タッチタイプができる」だけの素人デジタルワーカーです。主体的にWebページを制作できるスキルワーカーではありません。では、そうした人間にも可能なSEO作業とは何でしょう。

スパム発送作業だと思います。

 コメントスパム、トラックバックスパム、あるいは古典的なスパムメールかもしれません。最近ですと、Facebookの身分詐称アカウントからの友達申請は珍しくありませんし、Twitterにスパム誘導のための釣りアカウントではないかと思われるアカウント名がずらりと並んでいるのも見たことがあります。こうしたメッセージを大量発送して、1件でも風俗店サイトへの誘導を増やすこと、それを「SEOだ」と強弁しているのではないかというのが私の考えです。

メーラーにせよSNSツールにせよ、機械的な大量発送は対策済みのようですが、それならと人力での手当たり次第スパム発送に戻ってきているのではないでしょうか。素人スパマーに求められる能力はといえば、入力の速さだけでしょう。女性名で性別プロフィール:男性のまま友達申請をよこすFacebookアカウントをみれば想像がつきます。創意工夫など何もないのです。なくて幸いですが。

上記は「SEO業務っていったい何をさせる気だったんだ?」と彼から相談を受けたときに私が推測したことです。特に検証を行うつもりもありませんので推測のままにしておきますが、例に挙げた求人の口は、断られてかえってよかったというのが私の正直な感想です。

もしも、こんなところが入口となってスパム業者の片棒担がされる人間がいるとすれば、それはとても残念なことです。「SEOという言葉も知らないようでは使い物にならない」「何か探りを入れてきた、面倒くさいタイプだ」どう思われたのかまではわかりません。何にせよ、今回は主体的に彼が断わらなくても向こうから断ってきたのでよかったというところでしょう。こうした経験を表に出すことが良いのかどうか二人で相談しましたが、推測も含めて考えていただける材料になればと思っています。