続・カメラマンは食えなくなっているのか? 編集・ライターの事情

先日、「出版不況」と言われる状況を考察する記事が話題となっていました。
「出版不況」は本当か?–書籍まわりのニュースは嘘が多すぎる  (CNET Japan 2014年9月2日)
枕詞のように言われる出版産業の不況に対し、紙の書籍と電子書籍を個別に、バラバラに考えるのではなく両者を合わせた「総合書籍」というカテゴリで考えましょう、という記事です。紙書籍の売り上げ減少が今後続くとしても、電子書籍の伸びを合わせれば総合書籍の販売規模は、来年から微増とはいえ成長する見込みがあるといいます。

周囲の出版関係者の反応は、一言でいえば半信半疑。成長予測が現実のものになれば嬉しいけれども、自分の実感としてはそんな兆しがあるとは思えない、というところです。ライターの身としても単価の伸びが感じられない中で、市場の成長に素直に期待できるのか、悩んでしまいます。

困ったときは数字を検証、というわけで以前のエントリ カメラマンは食えなくなっているのか?でチェックしたデータをもう一度よく見てみようと思います。出版産業に従事する人の数です。

一般的には、ある産業が成長して、人手が足りない状態が続けば就労者数は増える、逆に市場が縮小すれば人は出ていく、のが前提ですよね。カメラマンをしている家族の経験と、国勢調査を元にした職業小分類別の就労者数の変化を重ねてみたところ、1990年代半ばがピーク、2000年ごろまでもちこたえたものの、2005年から2010年にかけて、2000人が減少(約3%減)していました。出版産業の中でいえば、広告の出稿数が下がれば、製作実務の件数そのものが減ります。また、記事(特にWeb記事では)あからさまに「カメラマンなんてお金かかるから要らない。記者や編集者ライターがついでに撮った写真で十分」という声が聞こえてきます。クオリティは歴然と違うのですが、それが売り上げに反映されるのかどうかわからない中では「誌面が貧乏くさくてもいいや。コストが安ければ」という感覚が幅を利かせるのも致し方ないのでしょう。私は、貧乏なのは仕方ないことだが、貧乏くさいのは良いことでもなんでもないと思っていますが。

さて、同様に出版の製作実務を担う職業小分類として「39:文芸家、著述家」「40:記者、編集者」を合わせて見てみましょう。数字だけ並べても見にくいので、かんたんにグラフにしてみました。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構発表「職業小分類別就業者数の推移」より。1995年まで実績、2000年以後推計。 http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/sansyoku/sansyoku.html

独立行政法人 労働政策研究・研修機構発表「職業小分類別就業者数の推移」よりグラフ作成。1995年まで実績、2000年以後推計。
http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/sansyoku/sansyoku.html

 

記者、編集者をでは、出版不況を示す販売実績のグラフと素直に一致するように思えます。新聞雑誌、書籍が売れなくなったから、書籍や記事を製作する編集者や記者も減ったのです。就労者数のピークは、出版が好況だった90年代半ば。国勢調査は5年ごとで次回は2015年ですから、今後この数が増えていくのかどうかは現時点では不透明です。

困惑させられるのは、文芸家、著述家の就労者数が一貫して右肩上がりに伸びているということです。どういうこと? 不況で本も雑誌も売れないのに、書く人だけなぜ増えているのですか?

「文筆業の参入障壁が低くなり、かつ『仕事に、お金になる』という期待値が先行しているのでは?
→PCなどツールの普及により文章を書くというスキルそのものがコモディティ化しているとはよく言われることです。出版社に就職する、作家に師事するといった最初のハードルを越えなくても、自分で自らを訓練して文筆活動をすることが可能になっています。しかし、業界全体の売上が下がっている中で、期待値だけで40年も就労者は増え続けるものでしょうか? 参入障壁が低いのであれば、売り上げが上がらないのであれば業界を去るのも簡単であろうと思います。

辞めた編集者・記者、写真家が文筆の方へスライドしているのでは?
→私の見解はこれ。私の実感ですが、出版関係の中でも編集者・記者、写真家、作家・ライターという書籍の中身(コンテンツ)を製作する人の作業は、辺縁が重なりあっていて不可分な領域があるのですよね。私はライターとして文章を書きながら取材の手配をして写真を撮りますし、企画の立案や書籍の構成、校正なども行います。編集・ライターと名乗っている人は珍しくなく、双方の実務を行っています。新聞記者から著述家へ、という変遷も大いにあり得ます。

出版産業の売り上げ減少は長らく続いてきた傾向で、それは間違いないと思います。とはいえ、その内部で実務を担ってきた人たちは(ことコンテンツ製作実務においては)複数の仕事を兼任し、それぞれ減った単価を補い合いながら、一気には業界から出ていくことなく持ちこたえてきたのかもしれません。ただし、印刷製本という出版の中でも実体のある部分まで含めて考えれば、出版産業の就労者は減少していることも考えなければならないと思います(この部分も確かめてみようと、宿題にしました)。上記の数字は、国勢調査による就労者数という、年間の販売量にやや遅れてついていく傾向を示しているものだと思います。現時点で今後を予測するのは難しく、2015年の国勢調査の結果に変化が現れているのか大いに期待したいところです。というわけで、来年の調査が始まったら期待を込めて現状を正確に記入し、統計の1マトリックスになることを楽しみたいと思います。

カメラマンは食えなくなっているのか?

3月3日、昨夜から今朝がたフォローしているタイムラインでは研究職の安定性の問題が話題になっていました。直接関係があるわけではないのですが、以前にタイムラインで「フリーカメラマンて食えてるの?」 という疑問を見かけたので連ツイしたものをまとめてみます(ツイートだと読みにくかったですね)。私これでもカメラマンの女房ですし。

リンク先のPDFは国勢調査を元にした職業小分類別の就労者数推移です。カメラマンは「43 写真家、カメラマン」の項ですね。スチールとムービーと両方入っているはずです。2010年の最新の国勢調査では6万5000人、日本にはカメラマンがいることになってますね。
ちょっとわからないのは、フリーランスかどうかを反映しているのかということ。社カメの方はまず「会社員」と回答すると思うのですが、さらに業種で区別して業務内容が写真業だったら小分類43に入れるのかしら。とりあえず大方フリーだと思っておきます。
確定申告の職業欄ベースならほぼフリーだとおもうんですけど、申告してないフリーランスもいるしなあ。

さて就労者数ですが、1980年:4万6000人、1985年:5万5000人、1990年:6万3000人、1995年:6万6000人、2000年:6万7000人、2005年:6万7000人、2010年:6万5000人。
’80年から’90年まで8~9000人ずつ増えてますね。5年で2割近く就労者数が増えていくわけだからそれだけ需要多かったということですね。80年代の雑誌ブームを反映しているんでしょうか(スチールの方の事情なので、ムービーの方の事情はちょっとわからないです)。

旦那さまはこの間にスタジオマンから師匠のところに行ったりした修業時代でした。ちなみに、日本でもかなり初期からCD-ROM写真集を試みたところです。80年代後半はバブルのころなので、仕事は引きも切らないし羽振りのいいことも相当あったようなのですが、このころからフリーの食える/食えない問題というのはありました

1990年前後あたり、旦那が友達と鍋を囲んで、珍しく豆腐やら肉やら入れた鍋にしたところ、先輩カメラマンが「お、今日の鍋豪華だな! どうした」「失業保険もらったんで具材買ったんですよ」「俺、お前の失業保険で鍋食わしてもらってんのか……」と先輩が涙した、という話がありました。豪華といっても、白菜とネギばかりの鍋に豆腐と豚コマが入ったとかそういうレベルですけれどもね。
先輩がなぜそんなに困窮していたのかというと、賞をとって評価を受けたものの、ギャランティ面で「でも、お高いんでしょう」ということになって仕事が減ったからだというんですね。もちろん賞をとってきちんと評価されないとカメラマンとしてのキャリアも続かないのですが、若手や中堅から一歩進む段階では、一時的にそういうバランスが崩れることがあるということです。しかしそれは一時的なものですね。全体では需要があるから就労者数が増えるわけです。そして1995年、2000年と伸びは鈍化しますがまだ増えています。4%増、1.5%増って曲がりなりにも写真家は専門職で参入のハードルが低いわけでもありませんし、伸びとしてはそれなりだと思いませんか。

このころ、徐々にDTPをきっかけにデジタル化が始まって、カメラ機材と感材の経費に変化がおきてきます。90年代だとまだファッション誌あたりではあんまりデジタル信用されてない、対応してないころでしたが、出版でのデジタル移行はすこしずつ始まっていましたしね。私もフィルム入稿の経験がある最後の方の世代じゃないかなと思います。
机の引き出しにダーマト(ダーマトグラフ:芯にワックスを含んだ色鉛筆、ポジフィルムのスリーブの上に描きこみするのに必要)が眠ってる、とか笑い話が通じる最後の方ですね。さて、世の中はバブル後ですが、2000年前後だと「出版はバブル崩壊の影響を受けにくい」なんてことも言われたりしましたし、ITブームが起きて世の中その流れについていくのにメディアもかなりがんばっていたわけです
旦那はIT関係の出版社とかかわりがあったわけで、取材が多くて要は需要があったんですよね。一日3階建て取材とか普通にありました。忙しかった。デジタル化で現像を自分でやらないといけなかったので、手間はかかるようになった。手離れというか、1件あたりの作業時間に対する単価は下がりつつあったと思います。
ただ、デジタルになったので感材費はかからなくなって、ランニングコスト的な経費は減ったかもしれません。結婚した当初、2000年くらい(もう少し後までかな)までは私も確定申告のときに旦那と相談して勘定科目に「感材費」を作ってプロラボ代をつけていたりしたんですが、だんだんそれがなくなっていきます。
デジタルの方が機材の陳腐化が激しいので設備投資というか減価償却資産に入るものはけっこうかかるんですけどね。現在の旦那の実感だと「3年ごと50万円」だそうです。ただ、毎月出ていくフィルム代は大きかったですからねえ。

さて2000年代前半までフリーを食わせていたメディア需要ですが、だんだん息切れというか続かなくなってきますよね。わかりやすいくらい、2000年と2005年就労者数が同じです。人増やすほど需要がなかったってことですよね

で、旦那も息切れw 2000年代の真ん中で体を壊します。無理がきかなくなって仕事激減、2008年まで私の方の仕事が件数増えて補えたんですが、2008年9月に何があったのかはもうわざわざいいません。
その後出版産業が2兆円を割り込んで、広告という最大の製作実務が減って、人はどんどん追い出されて2010年、ついにPDFスタートの1970年から40年間伸び続けていた写真家・カメラマンの就労者数が減少します。2000人が業界から出て行ったということです。いやあもう、カメラマン個人の家計に与える影響は推して知るべといいたいです。

カメラマン個人の平均年収はなんとも言えません。私は数字を持っていませんので。しかし仮に平均が年収500万円としましょう。ピンキリの世界ですが、経費の分、会社員平均より少し多いと思いますので。500万円×2000人、100億円分この業界は人を食べさせていくことができなくなったと、まあそういうことじゃないかなーと国勢調査をつらつら眺めて思うわけです(この考え方であってますか?)

そんな中でこれからどうなるのかなあ。いろんな浮き沈みを体験したんですけどこれから先は不透明すぎてよくわかりません。まじめにやってりゃいいというものでもないし、かつ個人の資質の部分も大きいけど、業界がシュリンクしている中で椅子取りゲームの敗因を全部個人のせいにされるのも釈然としないものがあります。
てなところです。これまでの経緯とか記憶頼りの部分もありますけど、これは個人が身の回り半径2mくらいで物言ってるということで勘弁してください。ちなみにPDFの第一項は「1(1) 自然科学系研究者」です。就労数変化っていろんなもの反映してるんですよね、きっと……。