カメラマン、ライターの仕事の価値を勝手に下げないでください

大変に残念なブログがありました。

写真が撮れてこそWebライター!本気でライティングを仕事にしたい人のための写真術』とのこと、Webライターとして記事のための写真撮影を指南するのだそうです。

大変若い方のようですので、私のような年上の人間があまり批判的なことを申し述べるのは気が引ける部分があります。とはいえ、この記事のような”写真術”がライターのスタンダードだと思われるのでしたら、広い方面に迷惑がかかるだけですので、執筆者の方のプロフィールはさておき、検証してみます。

露出補正だけではどうにもなりません

「(1)取材先の会社に行く、自社に来てもらう場合」の項によれば、取材対象者の人物撮影の場合、窓を背景にして座ってもらう方法がおすすめとなっています。「ふんわりした明るい写真にできる」「外の景色が背景になる」ためだそうですが、逆光気味で人物の顔が暗くなる。そうですね。そしてこれは

これはカメラの「露出補正」という設定を+側に振るだけで解決できます。

のだそうです。ですが、解決しません。サンプルの画像の場合、大きな窓の天井近くから外光が人物の手前まで回り込むように射しています。ですから露出補正である程度まで手前を明るくすることができますが、もっと窓の面積が小さかったどうでしょう? また、手前の室内に色の強い、面積の大きなものが置いてあったらどうでしょうか?

本当に撮影のために背景に負けない明るさを手前から補って色を出すのであれば、露出ではなくストロボやレフ板で光を入れるしかないのです。この項に限りませんが、このブログにはライティング(文筆のことではなく撮影照明のことです)に関する記述がほとんど出てきませんね。影は、明るくしても影です。白っぽくなるだけ。光の当たっている明るい部分は、露出補正や画像編集を行えばもっと白くなってしまいます。

構図と出力が合っていません

「(1)三分割構図とは」の項によれば、「黄金比の三分割構図だけは必ず覚えて」おけば実践的なのだそうです。「三分割構図とは、デジタル一眼レフカメラの撮影基本比率となっている3:2の長方形内」ということです。しかし、画像の縦横比が3:2となっているのは35mmフルサイズに合わせているから。デジタル一眼レフカメラの規格として提唱されたフォーサーズシステム(Four Thirds System)は名前からわかると思いますが画像の縦横比は4:3です。

後半の「(1)ファイルを圧縮しよう」の項に記述がありますが、この方の使用カメラはニコンD800で普段の画像サイズは5023×3347ピクセルとのこと、これならおよそ縦横比は3:2です。普段使っているサイズ、3:2を基準に構図を決めるというのはわかりますが、それはこの方の機材に当てはまることでしょう。ちなみに私はニコンでもだいぶ前のD3100を使っていますが、規格がAPS-Cですので画像縦横比は4:3です。

※機種、規格と縦横比の認識に一部誤りがありましたので訂正します。

また、同じファイル圧縮の項に最終出力として「iPhoneのRetinaディスプレイに対応できる、横1136×横640ピクセル(ママ)」という出力サイズの想定が出てきます。長辺1136×短辺640というのは3:2でも4:3でもありません。最終出力と違う縦横比で構図を決めると、何が実践的になるのでしょうか。

機材一式で70万円を越えます

生臭い話ではありますが、Webライターとして、プロとしての撮影術を云々するのであれば、収入と機材費のバランスを考えないわけにはいかないでしょう。

「(1)取材に必要な撮影機材一覧」の項には、理想の機材一式として、「デジタル一眼レフカメラ」「24-70mm程度の標準ズームレンズ」「50mm単焦点レンズ」「70-200mm程度の望遠ズームレンズ」「フラッシュ」「SD(CF)カード」「予備のバッテリー」が挙げられています。先ほども述べたようにこの方はニコンのD800がベースということですから(現行モデルはすでにD810ですが)、ボディがおよそ28万円程度、単焦点レンズが5万円程度、ズームレンズはそれぞれ20万円程度、ストロボは純正品で3万円から、おおまかに計算しても76万円。予備バッテリーやメモリーカード代もかかります。また、三脚の話が出ていませんが、三脚が必要になるシチュエーションは取材の中にはないのでしょうか。

こうした費用はあくまで撮影のため、そのほかにPC一式やソフトウェア、ライターとして録音機材などが必要になるわけです。タイトルにあるようにWebライターとして取材、原稿を書きながら同時に撮影も行わなくてはならない。ここで求められているのは、プロのカメラマンとプロのライター、2人分の働きを1人でせよ、という人物像なのです。

1人の人間が、機材を揃えればプロ2人分の働きができて、報酬もプロ2人分になるのでしょうか。Webライターですよね。Webライターの原稿料の相場として1本3000円であれば高額と言えます。雑誌と比較すれば10分の1以下ですが、2人前の働きをすればこれが紙媒体並みにアップしますか?

どんなに機材がよくなろうが、プロ2人分の働きはプロが2人いなくてはできません。原稿料1本3000円で「Webライターを生業にして」いくためには月産で100本書いてやっと30万円、1本2000文字の記事なら20万字(単純に30で割って1日あたり約6700文字)なのですが、このスピードで原稿を書き、CMSで原稿と写真をアップロードして、得られる収入で生活を維持しつつ70万円の機材を購入せよということなのでしょうか。「いや、ここで想定しているWebライターはもっと1記事あたりの報酬が高い」というのであればなおのこと、1記事にそれだけ高いクオリティを維持しているということです。ライターの価値をそこまで認めている媒体が、なぜ写真には同じ高いクオリティを保証できるプロのカメラマンをアサインして、記事の価値をもっと高めようとしないのでしょうか。実にアンバランスです。

「プロのWebライターとして取材し、入稿するまでの写真術」とのことですが、カメラマン役として撮影ができるWebライターとは、2人分のスキルを持つ人材ではなく、1人の人間の働きを半人前以下のカメラマンと半人前以下のライターに分割し、原稿料を0.1人前にした媒体側に都合のよいだけの存在ではありませんか? いったい誰のための”術”なのでしょう。それぞれ異なるスキルを持つカメラマン、ライターという存在の価値を落とし、Web媒体向けに文章を書くことを仕事にしようという人に多大な負担を強いる構図しか見えません。

カメラマン、ライターの仕事の価値を勝手に下げないでください」への6件のフィードバック

  1. ライター兼カメラマン、この働き方(スタイル)はありだと思います。スタンダートとは違うと思います。

    この著者少し決めつけが多く上から目線な気がします。
    スキルの説明や機材など、クオリティーとコストがあってないからおかしくなってるんだと思います。

    • 私も必要に応じて記事を書くために写真を撮りますが、ライターとして写真に関してできることは限られています。ライター、カメラマンなどが役割を分担してチームで制作した方がよい記事は多くあります。インタビュー記事はその代表例だと思います。

      もちろん、予算はどうするのだというご指摘はあるでしょう。予算のない中で最終的にライターがカメラマン役を引き受けることは実際あります。ただ、媒体側がライターとはそのようにある”べき”という論を展開するとなると、違和感を覚えます。

  2. 元雑誌編集のWebライターです。

    Webでも取材系の記事を書く必要がある、と声高に言われている現状があります。Webメディアは紙媒体よりも予算が少ないので、現実問題としてライターが撮影を兼任しなくてはいけないことも多く、それを踏まえた記事だったのかもしれません。「ライターだからやりません」では済まないから勉強しようよ、と。

    当然、こういった記事は時間がかかるため、1本3000円でやることはあまりないでしょう。しかし、取材記事をこなすことで時間あたりの単価が上がり、ライターとしてのキャリアアップがはかれるのかというと……微妙なところです。私の知る限り、バズる記事を書いてWebの有名人になったほうが儲かります。

    「ライターだって撮影出来て当たり前」という風潮については、おかしいと思っています。正直、下手なひとばかりです。それなのに、ここまで強気な記事を書いてしまうのは、プロのカメラマンによる撮影を見たことが無いからだと思います。この予想も、ちょっと強気過ぎますが。

    • Webメディア側の予算事情のことはよく聞きます。リンク先の撮影術記事はWebメディアの運営ブログの一部ですが、予算問題についても述べられています。ご覧になってみてはいかがでしょうか。

  3. 私は皆さまとは逆にカメラマンなのですが、「リライトするからライティングできない?」としょっちゅう言われます。
    簡単なブログ程度の記事しか書けませんが、それでまかり通っています。
    ブログ程度の記事なんてもう型が決まっていて「ここに名詞入れて」などになっているんですよ。ひどいもんです。全文キャッチコピーみたいな記事もありますし(笑)

    確かに人の目を惹くものは動画>画像>記事ですからね。
    画像が記事よりも大切になってきているのはわかります。
    読む側もそれなりの記事しか読まないので、それでいいんでしょうね。

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