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SpaceXの前に消えていったニュー・スペース企業たち

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この3月、宇宙ビジネスを題材にした良書が2冊立て続けに発売された。1冊は「アトランティック」関連WebメディアQuartzのティム・ファーンフォルツ記者による『Rocket Billionaires: Elon Musk, Jeff Bezos, and the New Space Race』。もう1冊はワシントン・ポスト紙のクリスチャン・ダベンポート記者による『The Space Barons: Elon Musk, Jeff Bezos, and the Quest to Colonize the Cosmos 』だ。どちらも現在の宇宙ビジネスを牽引するイーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、リチャード・ブランソン、グレッグ・ワイラーといった大富豪を取り上げている。多角的にニュースペースの人物像を知ることができるいい機会なので、読まずに宇宙ビジネスを語ってはいけないと思う。

せっかくなので、ネタバレになりすぎない程度に中身を紹介したい。先に読んだThe Space Barons(宇宙業界の豪商列伝という感じ)から、SpaceXやBlue Originとも関連の深い「その他の」企業の話だ。

まずは、イーロン・マスクの精神的先輩ともいえる民間ロケット企業ビール・エアロスペースについて。この会社は、20世紀末にペイロード20トンのヘビーリフター「BA-2」開発構想を掲げ、第2段エンジン開発に成功するも創業4年で消えていった。

創業者で数学の天才アンドリュー・ビールはテキサスで不動産売買によって財産を築き、民間宇宙産業を勃興しようと1997年にビール・エアロスペースを設立。テキサスのミサイル実験場だった場所をリースして開発を始めた。

これだけ聞くとクレバーな人のようだけれど、性格は根っからギャンブル好きで、ラスベガスに来てはめちゃくちゃな高レートのポーカー勝負を始め、現地でも超一流のプロのポーカー師2人がかりで丁重におもてなしされた上に勝ったり(その後はラスベガスに通いつめて億単位で勝ったり負けたりしている)、「人類は小惑星衝突で滅びるかもしれない、宇宙移民を急がなくては」と本気で心配したりしている。天体衝突には科学的根拠もあるが、『ディープ・インパクト』『アルマゲドン』公開が1998年であることを考えると、何に影響されたのかうかがえる気がする。ビジネスを覚えたのも、11歳のときに、軍の払い下げTVを1ドルで買い取って修理して40ドルで売り抜ける手法を実践してから、と控えめにいってもキチガイエピソードが満載の人だ。

ロケット構想は非常に大掛かりで、BA-2ロはサターンVのF-1エンジンを超える巨大エンジンを搭載し、3段式で高さ72メートルの巨大ロケットになる構想だった。すべて自己資金で第2段搭載用のケロシン/過酸化水素エンジンを開発するまでにいたった。

ただ、「宇宙産業が政府によって囲い込まれているのは不当だ」という強い信念を持ち、ロッキード・マーチンやボーイングといった企業と軍やNASAの関係が閉鎖的で、同時に最大のビジネスリスクだと常に主張していた。当時はまだNASAによるCOTSのようなプログラムはなく、2000年にNASAと国防総省合同の次世代宇宙機構想Space Launch Initiativeが発表されると、民間に勝ち目はないと絶望してビール・エアロスペースを廃業する。

それから数年。空っぽになった開発拠点のテキサスのマグレガー・ファシリティでエンジン燃焼設備がすっかり錆びついたころ、ジム・カントレルという1人の男性が施設を訪れる。知っている人は知っていると思うが、カントレル氏は初期のSpaceXで働いていた人物だ(現在はVector Space Systemsを設立して小型衛星打ち上げビジネスに参入)。ビール・エアロスペースの志も試験施設も今やイーロン・マスクが引き継いでいるというわけだ。

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次にキスラー・エアロスペースについて。大事なのは、これがCOTS契約を得てSpaceXらと競争するも資金難で消えていったロケットプレーン・キスラーの前身となる企業で、2005年までの話だということだ。しかも、カウンターパートはやはりSpaceX(というかイーロン・マスク)だ。実はCOTS以前にもSpaceXとキスラー・エアロスペースの間で競争があり、結果キスラーが負けている。

2004年当時、SpaceX(まだFalcon 1が飛ぶ前)がNASAを顧客にしようと奮闘していたころ、NASAはビール・エアロスペースを苦しめたSpace Launch Initiative計画のもとで、キスラーから再使用ロケット「K-1」の飛行データを2億2700万ドルで購入する契約を結んだ。

これに異を唱えたのがSpaceXだった。「NASAが同様の契約の機会をキスラー以外の企業に与えないのは不公正だ」と議会に訴えた。SpaceX内部では顧客にしようとしているNASAを敵に回すようなことをしてよいのか、と懸念の声が上がったというが、イーロン・マスクは主張を取り下げなかった。

Space Baronsの記述では、その背景にキスラーの開発責任者ジョージ・ミュラーの存在を見ている。ミュラーはサターンV、スカイラブ、スペースシャトル開発を手がけた伝説的エンジニアだ。キスラーは2003年にK-1開発費用が膨らみすぎて破産しており、契約は実質、NASAが大先輩である人物の関わる企業に対して救済措置として行われたというわけだ。2005年のSpacenews.comの記事もこれに似た論調で「ビジネスプランに問題のある企業を救済するのはNASAの仕事ではない」と結論づけている。
そして、SpaceX社内外の懸念もあった中で、GAOはイーロン・マスクの主張を認めた。これでキスラーは窮地に陥る(そもそも破産しているが)。K-1の開発は当初の2億5000万ドル予定から倍の5億ドルに膨らんみ、かつまだめどが立っていない。Spacenewsの記事によると、企業救済の専門家ダグラス・タイテルバウムが投資を試みたものの、出口戦略を見つけられずに撤退してしまい、キスラー・エアロスペースは完全に終わってしまった。翌2006年にロケットプレーン社に買収されてロケットプレーン・キスラーが誕生するが、NASAの民間宇宙輸送計画COTSに参入するも資金問題は解決できずに撤退。もう「キスラー」の名の元に宇宙ビジネスへ参入するのは無理ではないかと思う。

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K-1 Vehicle Separation. Image Credit: RpK

NASAの救済の元に延命しようとしたキスラー・エアロスペースだが、実は1993年に設立されたころ、NASAは同社の顧客として重視されていなかったのだという。キスラーによる商業宇宙活動は、通信業界向けの低軌道衛星コンステレーションビジネスを目指していた。ドットコム・バブルが弾け、衛星事業者の撤退に伴ってK-1の開発は頓挫したということなのだが、もしかしてそれは「テレデシックとキスラーが共倒れ」ということなのでは…? と思ってしまう。また、2000年代に入って、ローコスト打ち上げ手段への関心を増大させていた、国防総省界隈(ULA設立のときにも出てきた話だ)へK-1を売り込みに行かなかったのもまずかったのでは? とSpacenewsは述べている。

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ここまでは消えていったライバルの話だが、ここからは現在進行系でライバルであるULA設立の経緯をおさらいする。

もともと安全保障分野の政府コントラクターとして寡占的な地位を占めつつ競争を繰り広げていたボーイングとロッキード・マーチンだけれども、1998年に打ち上げ契約数で19:9とボーイング圧勝となったことがあった。その後、実はボーイングがロッキード・マーチンの内部情報を不正に入手していたことが判明。ペンタゴン周辺の大スキャンダルとなり、ボーイングは契約を制限される制裁をくらった。

2001年に9/11が発生して以来、GPSや軍事通信衛星はますます重要視されるようになっていった。NASAは技術開発の中核として存在感が増し、政府系の打ち上げ市場は巨大ビジネスとなった。

ペンタゴン界隈としては、衛星打ち上げロケットのロバスト性(片方に失敗があってももう片方が代わりを担える)意味でも、技術を常に発展させコストを下げる意味でも、2社以上に競争を続けてほしい。かといって、競争が行き過ぎてスキャンダルのようなことがまたあっては困る。そこで、企業は分けたままビジネスだけを統合させようと、ULAを設立させたという小史が語られている。巨大企業の誕生に政府系打ち上げのボーイング、ロッキード・マーチン依存度はますます増した。これにずーっとケンカを売り続けているのがSpaceXという次第だ。

このようにThe Space Baronsにはこの20年ほどのニュー・スペース界隈の浮き沈み事例がいくつも取り上げられている。これがあって今のSpaceXやBlue Originもある。

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SpaceXがたったひとつのボルトでロケットごと宇宙輸送船を吹っ飛ばした理由

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2015年6月、SpaceXがドラゴン輸送船の打ち上げ(CRS-7)中に第2段の爆発が起き、国際宇宙ステーションへの積荷ごとドラゴンが失われたという事故があった。それから2年9ヵ月、2018年の3月になって、NASAの独立調査チームによる報告書が発表になり、SpaceXが当初発表した第2段圧力容器周りの材料欠陥ではなく、「設計ミス」の可能性が大きいとしている。

NASA Independent Review Team
SpaceX CRS-7 Accident Investigation Report Public Summary
Date of Event: June 28th, 2015
Date of Report: March 12th , 2018
CRS-7事故の引き金になったのは、Falcon9ロケット第2段のLOx(液体酸素)タンクの圧力容器コンポーネント部分。コンポーネント内のヘリウムボトルを支える「アイボルト」「ロッドエンド」※(先端に太いリングが付いたボルト)の破損による。

※「『アイボルト』は他のボルトを指すため、正しくは『ロッドエンド(ロットエンド)』または『ボールロットエンド』の呼称が適切とのご指摘をいただき、修正いたしました。

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このロッドエンド破損から圧力容器コンポーネント全体に破損が起きて、ロケット第2段の爆発事故につながった。SpaceXの調査チームは当初このロッドエンド破損を「材料欠陥によるもの」としており、NASAの打ち上げ計画(Launch Services Program)チームもこの報告を支持していたという。

今回発表になったのは、LSPとは別のNASA独立調査チームによる報告だ。報告書によると、SpaceXはロッドエンドの素材として17-4PHという析出硬化型ステンレス鋼の素材を選択していた。参照した資料によると17-4PHも「航空機・ロケットなどの構造材」として用途があるため、まるっきり用途違いの素材を持ってきたというわけではないようだ。ただ、SpaceXは一定の安全係数をかけて部品を製造、実装するにとどまり、負荷試験などを行っていなかったという。

メーカーには航空宇宙グレードの推奨素材もあったそうだが、SpaceXはこれを選択しなかった。結果として17-4PH SS製のロッドエンドは極低温条件と飛行環境に耐えられずに破損、事故につながった、というのが事故の大きな原因として挙げられている。

オフザシェルフによるコストダウンの努力が結果としてめっちゃ高くついたという感じだ。それだけでなく、当時SpaceXはFalcon9のフライトコンピューターの実装方式を変更していて、飛行テレメトリ周りでレイテンシが増えるものになっていた。結果としてデータがまだバッファに溜まっているときに事故が起きてしまい、異常を示すデータもだいぶ失われてしまったという。個人的にはこうした「事故の原因になったわけじゃないけどそれやっちゃダメなやつ」の存在はとても気になる。そうした経緯があったからか、NASAは2年以上かけて事故のデータを保存し、今回の報告書を発表したという。

報告書に関するQuartzの報道によると、事故当時と同型のFalcon9はもう製造されておらず、その後は31回の打ち上げに成功している(2016年9月の打ち上げ失敗をのぞく)。そのため、本当の原因に対処できないままFalcon9を打ち上げてしまった、というわけではないようだが、2016年のNASAの文書でも「部品の取り付け方法に何か問題があったのでは?」という疑問を呈しており、SpaceXに対してハードウェア・サプライチェーンの管理を確実かつ安全性の高いものにしてほしい、という要望を持っていたようだ。

“自爆装置”導入で加速するSpaceXのビジネス

12月末のニュースで、Florida Todayが「ケープ・カナベラルから極軌道の打ち上げが可能になるかも?」と伝えている。50年以上、極軌道(ざっくり南北方向)に人工衛星を打ち上げることができなかったフロリダでそれが可能になるというのも大ニュースだけれど、さらにSpaceXが“Falconシリーズのロケットに“自爆装置”をいち早く取り入れたおかげで、フロリダでの打ち上げ獲得レースの先頭を走っているという論考があった。大事なことがたくさん書いてあるので紹介したい。

 

そもそも、フロリダで南への打ち上げができなくなったのは、1960年に米海軍がソー・ロケットの一部をキューバに落っことしての牛に損害が出たからだそう※。そこで現在、極軌道打ち上げを担っているのはカリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地となっているけれど、こちらは設備面や自然災害のためにあまり頻繁に打ち上げができない。2016年には、商用では世界最高の解像度を誇るDigital Globeの地球観測衛星WorldView-4が山火事のためVAFBからの打ち上げが遅れた、ということもあった。
※この件は「本当なの?」と深掘りするとややこしくも面白い話が出てくるよう。宿題にしよう。

そこで設備の整ったフロリダも使いたい、というのが空軍の意向だけれど、その通りに極軌道打ち上げを再開するにはロケット側も対応が必要になる。具体的には、レーダーでロケットを監視し、コースを逸れるなど飛行に異常があったときには指令破壊のコマンドを出す「レンジセーフティーオフィサー」にだけに頼らない飛行安全装置が必要になる。

2017年の2月、CRS-10の打ち上げのときからSpaceXは自律飛行安全装置(AFSS)という新型システムをFalcon 9に導入している。GPSベースで位置情報を測っていて、ロケットが予定のコースを外れ、人の居住地域に近づくと機体を破壊するというもの。つまり、指令破壊ではなくて文字通りの自爆装置だ。

他のロケット企業、ULAやBlue Origin、Orbital ATKもAFSSを導入予定だけれど、予定では2020年ごろになるという。SpaceXは時間的に先行しているので、この間にフロリダからの極軌道打ち上げを獲得できる。

SpaceXのAFSS導入にはビジネス面でもメリットがある。まずは安全性の向上。射場安全管理官がレーダー画像を見て指令破壊を判断するより、ロケット自身がコース異常を検知した途端に自身を破壊するほうが早い。しかも、空軍のレーダー使用とスタッフへ支払う費用を削減できる。現在、1回の打ち上げに関わる空軍のスタッフは160人もいるので、これを削減すればかなり打ち上げコスト削減につながる。

さらに重要なのが、Falcon Heavyの打ち上げコストもこれで削減できること。FHは3基のブースターを束ねた形状なので、再使用のため各ブースターの帰還にあたってそれぞれ安全管理が必要になる。これをレーダー+人間で安全管理するとコストは3倍になってしまう。Falcon Heavyの各ブースターにAFSSを組み込んでおけば、帰路の安全は自動装置が担当してくれる。コストを削減できてFalcon Heavyも頻回な打ち上げが可能になる。

このAFSSという装置は、NASA/ゴダードと空軍がずっと開発していたものだそう。資料を見ると2008~2009年頃にワロップスでテストしていたらしい。10年足らずで実装したSpaceXもすごい。

ファルコン・ロケットを再利用するとスペースXはどのくらい「お得」?

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アメリカで超小型衛星向けの小型ロケットを開発するVector Space Systemsのジム・カントレルCEOが、SpaceXのFalcon9ロケット第1段の再利用について、経済性の観点からQuoraに回答を寄せていました。面白いのでざっと訳してみます(やや生硬な部分はご容赦ください)

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How much does SpaceX save by reusing a Falcon rocket?

再利用可能なロケットを開発するための研究開発費を賄う、としよう。ロケット第1段を帰還させるには、機会費用(ここでは、帰還時に必要な燃料と、もっと多くのペイロードを軌道に乗せることができたはず、という収益機会の喪失という意味)と、フライトとフライトの間に必要な改修費用がかかる。一般的に業界の経験からすると、すべての費用を考慮して収益が得られるとするまでに、再使用ロケットまたはブースターを5~10回は打ち上げなければならないとされている。

このテーマについては多くの論文が書かれており、これはかなり確かな「経験則」だといえる。だが、これは「中古」の第1段で飛んでいる多くの顧客が要求するであろう値下げを考えると割に合わない。

私はSpaceXのFalcon 9の第1段は3回くらいまでしか打ち上げに再利用されないと考えている。したがって、SpaceXはこの算盤勘定で考えると再使用ロケットで収支が合うとはとてもいえないのだ。

それなら、なぜSpaceXは再利用ロケットを着陸させようとしているのだろう? これには2つ理由が考えられる。

まず、これは明らかに火星への着陸技術だということだ。これがSpaceXの目標の1つだとすると、(私はそもそもSpaceXという企業を興した主たる目的が火星行きだと思っている)、着陸システムの開発コストは再利用性とは関係のない他のさまざまな費用として計上されることになる。

次に、再利用性はフライト料金の大幅な増大を可能にする。おそらく主目的はこちらだろう。SpaceXの財務モデルを解析してみると、良好で強いプラスのキャッシュフローに達するためには、このクラスのロケットがこれまで実証してきた年間10~12回よりも多くの打ち上げが必要になることがわかる。単なる生産と物流の観点からすれば、再利用性によって打ち上げ可能回数を簡単に倍増させる。

再利用性を実現することで、年間20~25回打ち上げを実行でき、スペースXはより確実なキャッシュフローポジションに入ることができる。これが非常に重要な再利用ロケット開発の推進力であると私は考えている。主として生産、輸送、および付随するインフラストラクチャの面からすると、第1段は打ち上げ回数を増加させる際にはボトルネックの1つになると考えられている。 再利用性によって素晴らしいブランドイメージを形成できるということもある。だがもっと重要なのは、再利用技術で火星着陸の準備をしつつも、スペースXが打ち上げ回数を倍にしてより多くの金を稼ぐことができる、ということだ。

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第1段は生産のボトルネックだから2~3回再利用できればそろばんが合うというわけですね。となると、再利用した機体で打ち上げ失敗があると一気にキャッシュフロー健全化が遠のきそうな気はします。オペレーション、どうなっているんだろうと思いますね。

トランプ政権下のNASA方針決定チームにニュー・ホライズンズのアラン・スターン博士が参加へ?

Credit: NASA/JHUAPL/SwRI

Credit: NASA/JHUAPL/SwRI

2017年1月20日のドナルド・トランプ氏、米大統領就任まであと1ヶ月を切りました。

新政権でアメリカの宇宙政策とNASAがどうなるのかはまだはっきりとはわかりません。米メディアも情報が少ないので手を焼いているような印象を受けます。

新政権の周囲にいる人と議会の共和党は、これまでのNASAの計画の中でも小惑星再配置ミッション(ARM:Asteroid Redirect Mission)と地球科学プログラム(最近では、ハリケーン観測衛星CYGNSSを打ち上げました)に冷たいので、この2つは今後は冷遇、場合によっては撤退もありうるかもしれません。特に前者については、「NASAもやめてしまった小惑星探査」のような余計な言説になって日本に入り込んでくるのではないか? という不安も感じています。

何がどうなるのかはともかく、現状ではどのような方向性で話し合われているのか、整理しておきましょう。

■大統領選挙中に発言していた人たち

ボブ・ウォーカー氏
元下院議員のウォーカー氏は、2016年の大統領選挙中にトランプ氏の陣営で宇宙政策アドバイザーを務めた人です。NASAの地球科学を強く批判しており、同分野はNOAAに移管してNASAは宇宙探査に専念すべき、との主張が知られています。

現在、ウォーカー氏は新政権のNASAランディングチーム(方針策定チーム)には入っておらず、公式には宇宙政策を主導する立場にはありません。ただ、12月頭に開催された、宇宙政策に関するギャロウェイ宇宙法シンポジウムで講演、「NASAのゴールを“火星”といった単一の目標ではなく、太陽系探査全体とすべき」「地球科学部門を他の政府機関に移管」「ISSの運営を半官半民の企業体に移管」「National Space Councilの復活」「安全保障衛星の拡大とロボット化の推進」といった主張を述べたといいます。
ウォーカー氏は、「NASA長官就任を目指しているわけではない」と強調したということですが、公式な立場を離れても、発言内容はまだ重要視されているのではないかとも考えられます。

ジム・ブライデンスティーン氏
現役の下院議員であるブライデンスティーン氏は、新政権でのNASA長官候補として名前が上がったこともある人です。複数の候補の名前が上がっていますが、NASA長官は新大統領就任と足並みを合わせなければならないというものではないので(現在のボールデン長官は、前任者の任期終了後に就任しているので、オバマ大統領就任とは1年以上タイミングがずれています)結論が出るのはもう少し先かもしれません。
現在、ブライデンスティーン議員は下院の科学・宇宙・技術委員会で環境小委員会の議長を務めているということで、宇宙資源採掘と宇宙条約の整合性に関する議論を行っているとのことです。これはこれで非常に気になるテーマですが、長くなりすぎるのでちょっと置いておきます。

■現在のNASAランディングチーム

11月末、大統領政権移行チームは、新NASAの方針を策定するランディングチームを組織し、12月頭には初期6人のメンバーが参加しました。

クリス・シャンク氏:最初に選ばれたメンバー。ブッシュ政権下で当時のNASAのマイク・グリフィン長官の特別補佐官を務める。現在は下院の科学・宇宙・技術委員会(SS&T)のスタッフ。

グレッグ・オートリー氏:南カリフォルニア大学教授

ジャック・バーンズ氏:コロラド大学、天体物理学科教授。アメリカ天文学会副総裁、ルナール大学天文物理学研究ネットワーク(LUNAR)責任者、NASA諮問委員会科学委員会委員長などを経験。

スティーブ・クック氏:NASA出身。この人は、ブッシュ政権下で月・火星探査を計画してたコンステレーション計画の元、Ares計画のマネージャーとしてアレスIロケットとアレスVロケット開発に関わっていたということで注目されています。

ロドニー・ライスヴェルド氏:NASA出身で、マイク・グリフィン前長官とチャールズ・ボールデン現長官の元で上級政策顧問をつとめました。

サンドラ・マグナス氏:マクダネル・ダグラスのエンジニアから宇宙飛行士へ。スペースシャトル引退まで4回のミッションを経験し、ISS Expedition18長期滞在にも参加。現在はAIAAのエグゼクティブ・ディレクターとのことです。女性の宇宙飛行士経験者は、米女性初のスペースシャトルコマンダーとなったアイリーン・コリンズ氏がNASA長官候補として名前が上がっているので、あるいはこの方もそうかもしれません。

ジェフ・ワックスマン氏:元IBMワトソン研、現在はアリゾナ州選出のSchweickert議員の元で政策研究を行っているそうです。

■ランディングチームの追加メンバー

12月20日には、このランディングチームにさらにメンバーが加わりました。

チャールズ・ミラー氏:元NASA。2009年から2012年まで、NASAの民間宇宙企業との協業計画に参加し、CCDeVなど複数の計画に携わっていたといいます。また、ISSで超小型衛星放出機構など複数の宇宙実験機器を開発している、NanoRacksの設立メンバーでもあるといいます。NextGen Spaceというコンサルティング会社も起こしているとのこと。2015年には、NASAによる民間宇宙の可能性を評価するレポートの主任研究員を勤めており、「官民パートナーシップなど民間の力を活用すれば、5~7年で月への短期間ミッションを、これまでよりもはるかに低いコストで実現できる」と結論を出したといいます。1990年代から、民間宇宙開発推進のロビー活動も行っていたといい、かなりのコマーシャルスペース推進派です。

アラン・スターン博士(候補):追加のランディングチームメンバーとして、冥王星の探査で話題となったニュー・ホライズンズの主任研究員、アラン・スターン博士の名前が上がっているそう。実は、スターン博士は民間宇宙活動を推進するCommercial Spaceflight Federationのチェアマンをつとめていて、複数の民間宇宙企業に関わっています。高高度気球での宇宙旅行を計画するWorld Viewのチーフサイエンティストであり、ブルー・オリジンやヴァージン・ギャラクティックのコンサルティングにも参加、商業月旅行を計画しているGolden Spikeのアドバイザーも務めています(このゴールデン・スパイクは2012年の計画発表以来あまり音沙汰がないそうですが)などなど。

Alan Lindenmoyer氏(候補):ジョンソン宇宙センターでコマーシャルクルー、コマーシャルカーゴのNASA側責任者をつとめた人です。

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NASAのランディングチームメンバーと候補者を見ると、元NASAメンバーも多くいます。かつ、民間宇宙開発に理解もあり、これまでのNASAと宇宙企業の協調路線を継承する方針なのかな、とも思わせます。SLS開発は継続し、ボーイング・ロッキードマーチン合同のULAによるヴァルカンロケットも政府系衛星打ち上げの基幹ロケットとして採用、といった。

その一方で、元NASA関係者から、『スペースXのレッド・ドラゴンをNASAの火星計画に組み込もう』といったもう一段の民間宇宙開発推しの発言があり、これをジェフ・ベゾス氏が出資しているビジネス系メディアが報じる(しかもARM計画の廃棄とセットで)など、何かあまり好きになれない流れもあったりします。しかも、よく考えたらジェフ・ベゾス氏のブルー・オリジンはヴァルカンロケットにBE-4エンジンを供給することになっているので、ベゾス氏からするとどっちに転んでも悪くない話なんですよね…

どこまでもややこしいNASAの将来ですが、引き続き経過を追って、最終的な着地点まで見届けたいと思います。