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SpaceXの前に消えていったニュー・スペース企業たち

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この3月、宇宙ビジネスを題材にした良書が2冊立て続けに発売された。1冊は「アトランティック」関連WebメディアQuartzのティム・ファーンフォルツ記者による『Rocket Billionaires: Elon Musk, Jeff Bezos, and the New Space Race』。もう1冊はワシントン・ポスト紙のクリスチャン・ダベンポート記者による『The Space Barons: Elon Musk, Jeff Bezos, and the Quest to Colonize the Cosmos 』だ。どちらも現在の宇宙ビジネスを牽引するイーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、リチャード・ブランソン、グレッグ・ワイラーといった大富豪を取り上げている。多角的にニュースペースの人物像を知ることができるいい機会なので、読まずに宇宙ビジネスを語ってはいけないと思う。

せっかくなので、ネタバレになりすぎない程度に中身を紹介したい。先に読んだThe Space Barons(宇宙業界の豪商列伝という感じ)から、SpaceXやBlue Originとも関連の深い「その他の」企業の話だ。

まずは、イーロン・マスクの精神的先輩ともいえる民間ロケット企業ビール・エアロスペースについて。この会社は、20世紀末にペイロード20トンのヘビーリフター「BA-2」開発構想を掲げ、第2段エンジン開発に成功するも創業4年で消えていった。

創業者で数学の天才アンドリュー・ビールはテキサスで不動産売買によって財産を築き、民間宇宙産業を勃興しようと1997年にビール・エアロスペースを設立。テキサスのミサイル実験場だった場所をリースして開発を始めた。

これだけ聞くとクレバーな人のようだけれど、性格は根っからギャンブル好きで、ラスベガスに来てはめちゃくちゃな高レートのポーカー勝負を始め、現地でも超一流のプロのポーカー師2人がかりで丁重におもてなしされた上に勝ったり(その後はラスベガスに通いつめて億単位で勝ったり負けたりしている)、「人類は小惑星衝突で滅びるかもしれない、宇宙移民を急がなくては」と本気で心配したりしている。天体衝突には科学的根拠もあるが、『ディープ・インパクト』『アルマゲドン』公開が1998年であることを考えると、何に影響されたのかうかがえる気がする。ビジネスを覚えたのも、11歳のときに、軍の払い下げTVを1ドルで買い取って修理して40ドルで売り抜ける手法を実践してから、と控えめにいってもキチガイエピソードが満載の人だ。

ロケット構想は非常に大掛かりで、BA-2ロはサターンVのF-1エンジンを超える巨大エンジンを搭載し、3段式で高さ72メートルの巨大ロケットになる構想だった。すべて自己資金で第2段搭載用のケロシン/過酸化水素エンジンを開発するまでにいたった。

ただ、「宇宙産業が政府によって囲い込まれているのは不当だ」という強い信念を持ち、ロッキード・マーチンやボーイングといった企業と軍やNASAの関係が閉鎖的で、同時に最大のビジネスリスクだと常に主張していた。当時はまだNASAによるCOTSのようなプログラムはなく、2000年にNASAと国防総省合同の次世代宇宙機構想Space Launch Initiativeが発表されると、民間に勝ち目はないと絶望してビール・エアロスペースを廃業する。

それから数年。空っぽになった開発拠点のテキサスのマグレガー・ファシリティでエンジン燃焼設備がすっかり錆びついたころ、ジム・カントレルという1人の男性が施設を訪れる。知っている人は知っていると思うが、カントレル氏は初期のSpaceXで働いていた人物だ(現在はVector Space Systemsを設立して小型衛星打ち上げビジネスに参入)。ビール・エアロスペースの志も試験施設も今やイーロン・マスクが引き継いでいるというわけだ。

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次にキスラー・エアロスペースについて。大事なのは、これがCOTS契約を得てSpaceXらと競争するも資金難で消えていったロケットプレーン・キスラーの前身となる企業で、2005年までの話だということだ。しかも、カウンターパートはやはりSpaceX(というかイーロン・マスク)だ。実はCOTS以前にもSpaceXとキスラー・エアロスペースの間で競争があり、結果キスラーが負けている。

2004年当時、SpaceX(まだFalcon 1が飛ぶ前)がNASAを顧客にしようと奮闘していたころ、NASAはビール・エアロスペースを苦しめたSpace Launch Initiative計画のもとで、キスラーから再使用ロケット「K-1」の飛行データを2億2700万ドルで購入する契約を結んだ。

これに異を唱えたのがSpaceXだった。「NASAが同様の契約の機会をキスラー以外の企業に与えないのは不公正だ」と議会に訴えた。SpaceX内部では顧客にしようとしているNASAを敵に回すようなことをしてよいのか、と懸念の声が上がったというが、イーロン・マスクは主張を取り下げなかった。

Space Baronsの記述では、その背景にキスラーの開発責任者ジョージ・ミュラーの存在を見ている。ミュラーはサターンV、スカイラブ、スペースシャトル開発を手がけた伝説的エンジニアだ。キスラーは2003年にK-1開発費用が膨らみすぎて破産しており、契約は実質、NASAが大先輩である人物の関わる企業に対して救済措置として行われたというわけだ。2005年のSpacenews.comの記事もこれに似た論調で「ビジネスプランに問題のある企業を救済するのはNASAの仕事ではない」と結論づけている。
そして、SpaceX社内外の懸念もあった中で、GAOはイーロン・マスクの主張を認めた。これでキスラーは窮地に陥る(そもそも破産しているが)。K-1の開発は当初の2億5000万ドル予定から倍の5億ドルに膨らんみ、かつまだめどが立っていない。Spacenewsの記事によると、企業救済の専門家ダグラス・タイテルバウムが投資を試みたものの、出口戦略を見つけられずに撤退してしまい、キスラー・エアロスペースは完全に終わってしまった。翌2006年にロケットプレーン社に買収されてロケットプレーン・キスラーが誕生するが、NASAの民間宇宙輸送計画COTSに参入するも資金問題は解決できずに撤退。もう「キスラー」の名の元に宇宙ビジネスへ参入するのは無理ではないかと思う。

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K-1 Vehicle Separation. Image Credit: RpK

NASAの救済の元に延命しようとしたキスラー・エアロスペースだが、実は1993年に設立されたころ、NASAは同社の顧客として重視されていなかったのだという。キスラーによる商業宇宙活動は、通信業界向けの低軌道衛星コンステレーションビジネスを目指していた。ドットコム・バブルが弾け、衛星事業者の撤退に伴ってK-1の開発は頓挫したということなのだが、もしかしてそれは「テレデシックとキスラーが共倒れ」ということなのでは…? と思ってしまう。また、2000年代に入って、ローコスト打ち上げ手段への関心を増大させていた、国防総省界隈(ULA設立のときにも出てきた話だ)へK-1を売り込みに行かなかったのもまずかったのでは? とSpacenewsは述べている。

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ここまでは消えていったライバルの話だが、ここからは現在進行系でライバルであるULA設立の経緯をおさらいする。

もともと安全保障分野の政府コントラクターとして寡占的な地位を占めつつ競争を繰り広げていたボーイングとロッキード・マーチンだけれども、1998年に打ち上げ契約数で19:9とボーイング圧勝となったことがあった。その後、実はボーイングがロッキード・マーチンの内部情報を不正に入手していたことが判明。ペンタゴン周辺の大スキャンダルとなり、ボーイングは契約を制限される制裁をくらった。

2001年に9/11が発生して以来、GPSや軍事通信衛星はますます重要視されるようになっていった。NASAは技術開発の中核として存在感が増し、政府系の打ち上げ市場は巨大ビジネスとなった。

ペンタゴン界隈としては、衛星打ち上げロケットのロバスト性(片方に失敗があってももう片方が代わりを担える)意味でも、技術を常に発展させコストを下げる意味でも、2社以上に競争を続けてほしい。かといって、競争が行き過ぎてスキャンダルのようなことがまたあっては困る。そこで、企業は分けたままビジネスだけを統合させようと、ULAを設立させたという小史が語られている。巨大企業の誕生に政府系打ち上げのボーイング、ロッキード・マーチン依存度はますます増した。これにずーっとケンカを売り続けているのがSpaceXという次第だ。

このようにThe Space Baronsにはこの20年ほどのニュー・スペース界隈の浮き沈み事例がいくつも取り上げられている。これがあって今のSpaceXやBlue Originもある。

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ドナルド・トランプ大統領と火星への道のり

2016年11月9日、アメリカ大統領選挙に共和党のドナルド・トランプ氏が当選し、第45代米大統領となることが決定しました。米大統領戦に勝利するには政党が結束していることが必要だと思っていたので、共和党大物議員が次々と不支持を表明したトランプ候補が当選したことにはとても驚いていますが、選挙結果は選挙結果です。

決まったからには、トランプ新大統領がどのような宇宙政策を主導するのか、その方向性について考えてみたいと思います。

困ったことに、候補者であったときからトランプ氏は宇宙政策についてほとんど具体的な案を示していません。Scientific AmericanSpaceNewsなどいくつかのメディアが大統領選の最中に質問していますが、トランプ氏は抽象的かつ短い回答をしているにとどまっています。例えば有人宇宙政策はどうするのか、NASA予算は拡大なのか縮小なのか、といったことには「現状の問題については答えられない」としています。2020年代に小惑星へ、2030年代に火星へ、という現在の目標に対する回答は「就任後は、宇宙計画について包括的なレビューを行い、議会と共に宇宙ミッションとその優先度を決定する」と答えているのみ。クリントン、トランプ両氏の宇宙政策に関するメディア記事をまとめたForbesの記事によれば、要するにトランプ氏のこうした態度は「宇宙への関心の欠如を示しているのではないか」としています。

とはいえ、大統領に就任するからには、宇宙政策を放置、NASAは勝手にやって、というわけにもいきません。また、「アメリカを再び偉大にする」と打ち出しているからには、世界の宇宙開発を主導していると考えるアメリカの立場を積極的に放棄するということも考えにくいです。「ビジネスマンとして」とコメントしていることからも、産業と科学技術の分野で後退すると受け取られる施策も取りにくいでしょう。ただ、コストとベネフィットを勘案して、最大の効果が上がるようにするとはいっています。

情報や手がかりがない中で予測するのはあまり良いことではないかもしれませんが、あえてこの「関心は特にないが、後退しているようには見られたくない」ということを実現しようとした場合、どんなことをするのか考えてみたいと思います。

そこで考えられるのが、4年の任期終了後に設定されているような大目標には手はつけないが、その道程に計画されていることには手をいれる、という方法。アメリカがいま抱えたり検討している大きな宇宙プログラムには、2030年代の有人火星探査、2020年代の有人小惑星探査、木星の衛星エウロパの無人探査、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)、国際宇宙ステーション(ISS)の2024年までの維持と民間宇宙輸送の推進、などがあります。

この中で、火星有人探査が最大規模の目標であることは間違いないと思いますが、ここには手を付けないのではないかと思うのです。「火星にアメリカ人が一番乗り」はとてもわかりやすい目標ですし、火星をやめてどうするのか、という問題もあります。ここで月をもう一度有人探査の目標にしてしまうと、ルナ計画を再開して月面基地計画を進めるというロシアや中国との競争になってしまうのです。

エウロパの無人探査については、目標にはあえて手を付ける必要もないし、議会と協調して予算を理由に実現を先延ばししてもどちらでもよいというところではないでしょうか。ISECGの国際宇宙探査ロードマップ(もうすぐVer.3が発表されるとのことですがそれにしても)を見ても、木星をターゲットにした大目標をもっている国はアメリカ以外になく、ジュノー(木星)、ニュー・ホライズンズ(冥王星とカイパーベルト天体)の実績を持つアメリカ以外の国が、トランプ大統領の任期中に彗星のように抜き去っていく、ということはちょっと考えにくいからです。

ISSについては、すでに民間へ宇宙輸送を委託するCOTSが始動していることから、産業育成の点からいっても民間移譲の流れでこのまま進めていくと思われます。また、JWSTは完成まで押し詰まっており、予定通りならば任期真ん中の2018年打ち上げです。任期中にハッブル宇宙望遠鏡の後継機として世界最高性能の宇宙望遠鏡打ち上げに立ち会う大統領、という立場を捨てる理由もないでしょう。

と、いうわけで米大統領としてトランプ氏は現在の宇宙政策を拡大路線で進めて行くようにも思われますが、ここで考えたいのが、2030年火星有人探査という目標を実現する、その方法です。つまり、Space Launch System(SLS)とOrion宇宙船の開発です。

SLSは実現すればアポロ宇宙船を打ち上げたサターンVを超える世界最大級のロケットになる予定ですが、予算超過と計画の延期が何度か問題になっています(JWSTもたびたび延期しましたが、こちらは完成間近)。無人モジュールEM-1を搭載した試験機初打ち上げは2018年末に予定されていますが、上段を改良しての実用機の打ち上げは早くとも2021年以降。アメリカで人気の天文学者フィリ・プレイトさんもこの問題を取り上げたことがあり、「一宇宙ファンとしてはSLSはエキサイティングだけれども」としながらもその実現に疑問を呈しています。

ここで、もしもトランプ大統領と議会がSLS計画の見直しを打ち出し、火星有人探査の目標はそのままに、手段をSLS以外のもっと費用対効果の高いものにする、といえば、かならずしも「宇宙(科学)オンチの大統領の暴挙」というよりも、英断と評価される可能性もあると思うのです。

しかも、SLSを推進するNASAの中にも、SLS反対派がいます。現在はNASAを離れていますが、元NASA副長官のロリ・ガーヴァーさんはSLS中止を主張する論者で、元宇宙飛行士であり有人宇宙探査協力推進派のチャールズ・ボールデン現長官とは異なる立場をとっています。

NASA長官は米大統領が任命するので、ここでボールデン長官の後にガーヴァーさんをNASAへ呼び戻すとしたらどうでしょう? もともとガーヴァーさんもオバマ大統領が任命した人ではあるので、応じるかどうかはわかりません。ただ、NASAを率いるだけの実績を持つ人の中にも、SLS中止の側に立つ人はいるわけです。また、アメリカ政府機関の中でも世界的に知名度、人気の高いNASA長官に女性を登用すれば、女性に人気がないともいわれるトランプ氏にとってはひとつの評価点になるかもしれません。

では、SLSをやめて火星はやめないとすれば、どうやって火星へ行くんだという疑問は当然でてきます。ここから先は憶測の上に憶測を重ねるようなことになりますが、COTSで有人輸送技術を手にした後に、火星有人探査を目標としている民間企業がありますね、とは思います。

もう一つ懸念があるとすれば、SLS/Orionでの火星探査の前に、その前段階として予定されている小惑星探査(Asteroid Redirect Mission)ですが、これは大きな後退を余儀なくされるということです。せっかく日本の「はやぶさ2」と同時期に小惑星探査機OSIRS-RExを打ち上げているアメリカがそうなってしまったら残念なのですが、先行きに対するヒントは、まだ見つかりません。