crs-7

2015年6月、SpaceXがドラゴン輸送船の打ち上げ(CRS-7)中に第2段の爆発が起き、国際宇宙ステーションへの積荷ごとドラゴンが失われたという事故があった。それから2年9ヵ月、2018年の3月になって、NASAの独立調査チームによる報告書が発表になり、SpaceXが当初発表した第2段圧力容器周りの材料欠陥ではなく、「設計ミス」の可能性が大きいとしている。

NASA Independent Review Team
SpaceX CRS-7 Accident Investigation Report Public Summary
Date of Event: June 28th, 2015
Date of Report: March 12th , 2018
CRS-7事故の引き金になったのは、Falcon9ロケット第2段のLOx(液体酸素)タンクの圧力容器コンポーネント部分。コンポーネント内のヘリウムボトルを支える「アイボルト」「ロッドエンド」※(先端に太いリングが付いたボルト)の破損による。

※「『アイボルト』は他のボルトを指すため、正しくは『ロッドエンド(ロットエンド)』または『ボールロットエンド』の呼称が適切とのご指摘をいただき、修正いたしました。

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このロッドエンド破損から圧力容器コンポーネント全体に破損が起きて、ロケット第2段の爆発事故につながった。SpaceXの調査チームは当初このロッドエンド破損を「材料欠陥によるもの」としており、NASAの打ち上げ計画(Launch Services Program)チームもこの報告を支持していたという。

今回発表になったのは、LSPとは別のNASA独立調査チームによる報告だ。報告書によると、SpaceXはロッドエンドの素材として17-4PHという析出硬化型ステンレス鋼の素材を選択していた。参照した資料によると17-4PHも「航空機・ロケットなどの構造材」として用途があるため、まるっきり用途違いの素材を持ってきたというわけではないようだ。ただ、SpaceXは一定の安全係数をかけて部品を製造、実装するにとどまり、負荷試験などを行っていなかったという。

メーカーには航空宇宙グレードの推奨素材もあったそうだが、SpaceXはこれを選択しなかった。結果として17-4PH SS製のロッドエンドは極低温条件と飛行環境に耐えられずに破損、事故につながった、というのが事故の大きな原因として挙げられている。

オフザシェルフによるコストダウンの努力が結果としてめっちゃ高くついたという感じだ。それだけでなく、当時SpaceXはFalcon9のフライトコンピューターの実装方式を変更していて、飛行テレメトリ周りでレイテンシが増えるものになっていた。結果としてデータがまだバッファに溜まっているときに事故が起きてしまい、異常を示すデータもだいぶ失われてしまったという。個人的にはこうした「事故の原因になったわけじゃないけどそれやっちゃダメなやつ」の存在はとても気になる。そうした経緯があったからか、NASAは2年以上かけて事故のデータを保存し、今回の報告書を発表したという。

報告書に関するQuartzの報道によると、事故当時と同型のFalcon9はもう製造されておらず、その後は31回の打ち上げに成功している(2016年9月の打ち上げ失敗をのぞく)。そのため、本当の原因に対処できないままFalcon9を打ち上げてしまった、というわけではないようだが、2016年のNASAの文書でも「部品の取り付け方法に何か問題があったのでは?」という疑問を呈しており、SpaceXに対してハードウェア・サプライチェーンの管理を確実かつ安全性の高いものにしてほしい、という要望を持っていたようだ。